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誘われし狐  作者: こう茶
17/44

壱拾四巻

明けましておめでとうございます!

今年もよろしくお願いします。では、どうぞ!

 鈴と一緒に翠さんたちの店へ行き、武器を受け取るとその足で次郎長さんの元へと向かった。

 俺たちが話し合って決めた事を次郎長さんに伝えるためだ。


「次郎長さん、居ますか? お話しがあるんですが」


 俺の声に反応して、奥から出てくる。


「おお、小次郎に鈴じゃねえか。どうした? って。ど、どうしたんだお前!?」


 次郎長は鈴を指さして開いた口が閉じないようだった。


「師匠、どうしたんですか?」


「お前いつの間に存在進化ランクアップしたんだ?」


 ああ、そんな事か。でも、そう思うのも当然か。ちょっと見ないうちに姿が変わってれば誰だってびっくりするよな。


「んー、色々?」


「鈴、それじゃあ伝わらないだろ……」


 鈴の適当な説明に思わずため息が漏れた。

 そんなんじゃあ、次郎長さんは納得しないと思うぞ。


「それだけで分かるかバカ者! それによく見れば小次郎お前も存在進化してるじゃないか!? いったい何があった?」


 どうやらちゃんと説明しなければならないようだ。仕方がなく銀(師匠)が山に帰り、銀を追って山に入り、白鬼猿と遭遇し、その後存在進化した事を話した。

 もちろん、何を思って山に入ったかは伝えてはいない。恥ずかしいからな。あんなの幼子が駄々をこねるのと一緒だ。


「なるほど。つまり、今回の要因は小次郎お前にあるわけだな?」


「はい」


 素直に答える。これから何が起こるかは分かり切っている。そこに拳を振り上げている次郎長がいるからだ。


「――ッ!」


 痛かった。けど、何より心配してくれる人がいると実感できる事が嬉しかった。


「さて、説教はこの辺にして、鈴の祝う会を開くぞ! お前ら、今日はもう閉店貸し切りだ。鈴を祝う準備をしろ!」

 

 説教を切り上げると、奥に居る猫又たちに向かって怒鳴る。これほどまでに短く終わらせる事から余程鈴が三又の猫になった事が嬉しいらしい。


 その晩は『猫飯屋』で御馳走に預かった。皆、日本酒や焼酎に似た飲み物を片手に騒いでいる。

 次郎長、店員もろとも鈴が存在進化したことを喜んでいるようだ。やはり、存在進化なんてのはすぐにできる者ではないのだろうか? 俺が短期間でここまでの存在になれたのは【成長促進】の効果が大きいだろう。

 俺は一人騒いでいる風景を眺めながらちびちびと鬼酒を呑んでいた。ちなみに味は日本酒に似ていて、きりっとする。

 その騒ぎの中から次郎長が徳利とお猪口を持ってこちらにやって来た。


「よお、呑んでるか?」


「ええ、まあほどほどに」


 酒臭い息を吐きながらお猪口を差し出す。受け取るとなみなみと注いできた。


「で、さっきの話してのは何だ?」


 意外だ。ちゃんと覚えていたらしい。だが、この状態の次郎長さんと話して大丈夫なのだろうか? まあ、覚えていなかったら面倒ではあるが、もう一度話せばいいか。


「話しというのはですね。鈴の事なんですけどね」


 そこまで言って思い出す。ここまでの道のりで話し決めたことを。


 



「小次郎はこれからどうするの?」


 存在進化の影響で全快した俺たちは軽い足取りで帰途についていた。そんな時の鈴からの質問だった。だが、どうと聞かれても俺に答えはなく詰まってしまった。


「……」


「決めてないんだったら。鈴と一緒に冒険しない?」


「冒険?」


「そう! 師匠から聞いた話だと危険だけどとても楽しい物らしいにゃ!

 お店を持つのも良いけど、これも良いと思ったにゃ!」

 

 鈴は目を輝かせて言う。鼻息も荒い。ちょ、近づくな。


「ふうん。まあ、やる事ないしな。いいよ」


「やった! じゃあ、師匠に話したら早速狩猟組合に登録に行こ!」


 おっと、聞きなれない言葉が出てきたな。


「モンスターでも狩るのか?」


「そう! 買ったモンスターは素材として組合に売って、それを元手に旅に出るにゃ!」


「へえ、面白そうだな。それに強くなれそうだし、一石二鳥か。よし、話をつけたらすぐに行こう!」


 俺は新たな目標が出来て満ち足りた気分になっていた。





「というわけなんですけど、連れて行ってもいいですか?」


 次郎長は寂しそうな表情を浮かべるがすぐに笑った。


「ははは! 鈴は許可を出さなくても勝手に行っちまうさ。なに、最後に話が出来ただけでも良いんだよ」


「次郎長さん……。やっぱり、やめといた方が」


 俺の言葉を遮るように次郎長は言葉を被せた。


「いや、いい。あいつに冒険の話を聞かせたのは俺だ。昔っからあいつはこういう話が好きだった。まあ、大分盛ってるけどな!」


 そう言って笑うが、どことなくぎこちない。頭では分かってはいてもどうすることも出来ないのだろう。


「お前も聞くか?」


「はい。是非!」


 なら、俺の出来ることは晩酌に付き合う事だろう。









 あの頃の俺は銀様、鉄様、雪の姉御、翆さん、力、と一緒に旅をしていた。あの時から銀様と鉄様は圧倒的に強かった。強烈に憧れたよ。

 ん? 姉御が誰かって? 俺たちの中での紅一点雪女の雪の姉御だよ。雪を思わせるような白い肌にそれによく映える長く艶やかな黒髪。一緒にいるだけで気後れしちまいそうなほど綺麗だったぜ。銀様はよく分からなかったが多分俺たち皆が雪さんの事が好きだったぜ。あん時はどっちが雪さんの事を好きかって力とはよく言い争ったもんだ。

 まあ、俺たち全員銀様と鉄様の強さに憧れて一緒に旅してたんだけどな。

 俺はそん中でも最年少で力も弱く、一番の下っ端だったから、姉御には可愛がられ力の野郎とはよく喧嘩したな。

 力の弱い俺の役割は小さな体と素早い動きを活かした斥候だった。ここは鈴に言う時はばったばったと敵をなぎ倒す前衛だと見栄を張るんだがな。お前なら考えれば分かっちまうだろうし、銀様の弟子の前で嘘は付けねえよ。

 銀様は司令塔としての中衛。鉄様と力が強靭な肉体を使っての前衛。姉御が氷属性の魔法と種族特性を使っての後衛。翆さんは専ら武器の修理などの補助に回ってたな。俺は斥候兼囮といったところだな。

 とまあ、俺たちは血の気の多い班だったが、楽しくやってたぜ。

 まあ、あの方たちは俺を囮に使う事はなかったから、力の足りない俺は外で眺めているだけだった。時々強いモンスターが出てくると早く追いつきたいと願ったもんだ。

 銀様は口が悪くてすぐに敵を作るから、襲ってくる同業者を返り討ちにしたり、姉御に付きまとう変な虫を追い払ったり、力の野郎の女癖の悪さの尻拭いをしたり、鉄様、翆さんと一緒になって止めに入ったりと忙しかったな。思い出したら腹が立ってきたな。何で力の尻拭いなんかしなきゃいけなかったんだ!

 ゴホン。まあ、そんなわけで色々なところを旅をした。姉御がいたからあまりにも暑い所には行かなかったが、それでも色々な物を見て回った。思えばあん時が一番楽しかったな。

 分かるとは思うが始まりがあれば、終わりもある。なぜ、解散したかってのはまたそのうち話してやる。これは長くなるからな。

 

 




「とまあ、昔話の一部だな」


「やっぱり、師匠と一緒に旅してたんですね。それに色々と苦労したんですね。師匠があんなんでごめんなさい」


「いいってことよ。何より楽しかったからな!」


『ははは!』


 気づけば師匠の事でも気軽に笑えるようになっていた。やれやれ、鈴といい、次郎長さんといい勝てる気がしないな。


「出発はいつになるんだ? と言っても鈴なら早く行こうと言うだろうし、明日か? ま、今日はうちで休んで行けばいい」


「ありがとうございます。じゃあ、遠慮なく」


 やっぱり、鈴を良く分かってるんだな。でも、表情は鈴との別れを感じて寂しそうだ。


「小次郎、鈴を頼むぞ」


「はい!」


 




 一夜明けて早朝俺たちは準備を整えて『猫飯屋』を出た。

 俺は翠さんたちに作ってもらった装備を付け、鈴は選別にと貰った短刀――鈴の大きさを考えると短刀ではない銘は『なぎ』と言い、風属性魔法が付与されている魔法剣だ――を腰のベルトに差し、白鬼猿の毛皮で作られた服――女の子用にと袖にフリフリの付いた長袖のシャツにデニム、耳の形状に合わせたフード付きのコート。全部同じ素材を使っているおかげで真っ白で、雪山に入ればいい隠れ蓑になるだろう――を着ている。もちろん、素材が素材なだけにそれなりの防御力を持っている。俺はそんな立派な装備は付けてない。いいもんね、毛皮があるから寒くないし、着たら邪魔になるだけだからね。別に素材と金と時間がなくて作れなかったわけではない。


「じゃあ鈴、案内してくれよ」


「うん! これからよろしく!」


「ああ、よろしく」


 俺たちは小走りで狩猟組合に向かった。




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