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誘われし狐  作者: こう茶


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壱拾壱巻

「ど・こ・に・行こうかな?」


 懐かしい街並みを見渡しながら、辺りをきょろきょろと見て回った。


「あ、ここ良いな」


 立ち止まったのは、美味しそうな焼けた肉の匂い漂う『猫飯屋』という赤い暖簾のかかった店だ。

 周りを見ると、同じく匂いにつられて立ち止まる人も多い。これは味にも期待が持てそうだ。


「どんな感じなんだろう?」


 気になって暖簾に顔を突っ込むと見えてきたのは楽園だった。


 一段上がった先に広がるのは畳の広間。その上にいくつもある鉄板。大量の肉がジュージューと音を立てて焼かれている。そして、猫の妖怪「猫又」――尾の先が二つに分かれた4尺くらいの大きさの猫――が元気よく接客をしている。

 

「なかなか活気があるな。まあ、内の店と比べるとまだまだだけどな」


 さてと、食事でもしますかね。

 冷静に考えると金持ってないな。どうしようか?


「食事ですにゃ? お客さみゃ」


 ん? 誰だ? 声色で分かる。猫又の女性か。愛想の良さそうな笑顔だな。


「あ、いえ。いや、違わないんですけどね。今、お金を持ってなくて」


「大丈夫ですにゃ。後払いで構わないですにゃ。さあさ、ようこそ猫飯屋へ!」


 この店員出来るな。あれよ、あれよと言う間にここで食事することに決まったが、本当に大丈夫か?


「では、これがお品書きですにゃ。上に書いてあるのが当店の人気商品ですにゃ」


 




「うん、美味しかった」


 結論を言うと食べた。それも相当な量をだ。まあ、悔いはない!


「満足していただいて何よりですにゃ! それと、お客さみゃ代金の方にゃのですが――」


「御馳走様でした!」


 言われるよりも先に逃げ出したが、尻尾を掴まれてすぐに捕まった。目がギラついてる。逃げられそうもないな。


「大丈夫ですにゃ。ちょっと働いてもらうだけですにゃ!」


 笑顔に背筋を凍らせたのは師匠で二人目だった。






 そして、俺は食事代代わりにやって来たのは里の外れにある「始まりの草原」と呼ばれる場所だ。なんでもここは戦士となる者たちが一番最初に訓練するための場所らしい。

 この情報は隣にいるさっきの店員さん、もとい猫又のりんさんだ。その手には包丁が握られている。それで戦うつもりなのだろう。

 なぜ、この場所にやって来たかと言うとだ。まあ、鈴が包丁を持っている時点で分かるとは思うが『猫飯屋』で出す肉を取りに来たというわけだ。

 俺の実力を見ながら、出来るだけいい肉を取るために一緒にモンスターと戦ってくれればいいという話だ。


「ところで、にゃんで小次郎さんは刀を持っているんだにゃ? ちゃんと使えるにゃ?」


「うぐっ! まだ、握ることも出来ないけど近い内に使えるようになるから持ってるんだ」


 自己紹介をすでに済ませてある俺たちは問題なく会話を楽しんでいた。


「どうやってだにゃ?」


「それは存在進化ランクアップすれば、出来るようになる! いや、やるんだ!」


「にゃにゃ! すごいやる気だにゃ。鈴も二又じゃにゃくて、三又になりたいにゃ。そうすれば、自分の店が持てるようになるにゃ!」


「へえ! じゃあ、あと一回存在進化すれば店が持てるようになるのか?」


「そうにゃ! 三又になって一人前だにゃ」


 ふうん、やっぱり種族によって違いがあるんだな。 


「じゃあ、ちょっと奥まで行ってみようよ。少しは腕に自信があるからさ。それにここは弱いモンスターしか出てこないんだろ?」


「んー、そうだけどにゃ。慎重ににゃ」


「そっか、分かった。じゃあ、ちょっとそこにいる奴らを倒すから見ててくれよ!」


 俺は安心しきっていた、なぜなら周りにいるモンスターの位階は平均で二位なのだ。対する俺は試験前の時点で三位。そして、試練を乗り越えて、山を越えた今なら四位。負ける気がしない。ちなみに鈴はと言うと。


 名前:鈴

 種族:二又の猫 

 位階:二位


 はっきり言ってしまえば弱い。俺の周りの基準からすればだが。まあ、今まで師匠との修行という名の苦行のせいで周りの位階が高かったせいで、この位が普通なのだろうと思っていたが違うようだ。

 

 周りには、と。

 ふむ、漆黒の狼ナフィードウルフ――雪山で出てくる漆黒の大狼ナフィードウルフと呼び方は同じだが、大きさが一回り小さい――と鶴草つるくさと呼ばれる葉で蔓の形をした花だ。このモンスターは本体が地中にあり、鶴の部分を倒しても意味はないそうだが、何せ地中にいるため掘り起こすのが面倒だそうだ。倒すと擦り下ろして食べれるそうだが、まあ今回の目的は肉だから、さくっと鶴の部分を倒してナフィーを狩ればいいだろう。鶴の部分さえ倒してしまえば、脅威はないらしいから無視だな。


「さてと、じゃあ見ててくれよっ!」


 駆け出したのと同時に【軽身術】を使い、加速。

 敵はどうやら俺の速さについてこられていないようだ。【見切り】を使うまでもなく、遅い。いや、俺が速いだけか。思わぬところで成長を実感できたな。

 勢いそのままに草を突っ切るように噛み千切ると、大きくナフィーのほうへと跳躍。爪を突き立てることで止めを刺した。反対に鶴草の方はまだ半分動いているが、葉の部分を倒してしまえば攻撃手段はないとの事なので、気にしなくていいだろう。

 そこからは俺の独壇場だった。

 ナフィーを踏みつけたまま、周りに魔法を放ち鶴草を倒し、【操尾術】と【鋼毛】で一歩も動くことなくナフィーを貫き倒し尽くした。


「弱いな」


 俺の独白に鈴は目を輝かせて駆け寄ってきた。


「すごいにゃ! あの数をこんなに早く倒すにゃんて!」


「はは。まあ、厳しい師匠がいるからこの位出来て当然だよ」


「小次郎さんはお師匠さんがいるにゃ?」


「うん、いるよ。とっても怖い師匠が」


 そこで不意にゾクッと悪寒が走った。

 嫌な予感がする。師匠はいないよな。うん、大丈夫だ。首を振って嫌な考えを振り払った。


「だから、大丈夫だって言ったでしょ。じゃあ、奥に進もうか」


 鈴が頷くのを確認すると、歩き始めた。


「あっ、待つにゃ。すぐにナフィーを解体するにゃ」


 ああ、奥に行く事ばかり考えてたからすっかり忘れてた。


「その肉どうするんだ?」


 鈴を見ると、背に皮の袋を背負っているが、俺が倒したナフィー全部を入れるのはどう見ても厳しそうだ。


「ふふん。まあ、黙って見てるにゃ」


 不安に思っていると、鈴はそう自信満々に言い切った。


「いくにゃ。【二連斬】!」


 ヒュンヒュンと風を切る音と同時に鈴の腕が霞んだ。

 ナフィーを見ると綺麗に三等分されていた。


「今のは?」


「スキルにゃ。包丁を使うようににゃってから、使えるようになったにゃ」



「へぇー。俺も刀が使うようになったら出来るようになるのかな? 楽しみだな。」


 俺が感心している間に鈴さんは黙々と袋にナフィーの肉を入れている。だが、どんなにいれても袋がいっぱいになる様子はない。

 その様子に驚いていると、鈴が解説をしてくれた。


「これは転移袋にゃ。この袋に入る物なら幾らでも入れる事が出来るにゃ。転移先は厨房に繋がってるにゃ。言うなら、この袋は底がない袋みたいな物にゃ」


 鈴の説明に興味をもった俺は詳しく聞いてみた。

 どうやら、この袋の底には光属性の転移魔法がかかっていて、さらには厨房にも術式があり、底に触れた瞬間、転移する仕組みになっているようだ。そして、転移する方向が一方的だという欠点はあるものの大変便利なものだろう。また、これを使うには魔力を込めなければならないらしく、店に戻ったら他の人に込めてもらうそうだ。補足だが、魔力が増えるのは三又になってからなのも一人前は三又からという決まりに一役買っているのだろう。

 面白い道具もあるもんだ。


 解体し終わるとすぐにその場を離れる。臭いにつられた奴がやって来るかもしれないという配慮からだ。このため、水属性魔法が使えない半人前は本来ならば一回調達したらすぐに厨房に戻らなければならないのだが、俺が予想以上に強かったため、このまま続行するようだ。

 俺自身もこの程度の敵ならば何ら問題はなかったから、特に反対することもなく、サクサクと進んでいった。


 さて、この草原は始まりの草原と言われるだけあって、出てくるモンスターは弱い。

 それは周りを山々に囲まれているからだ。山には強いモンスターが住み着き、草原や平原には弱いモンスターが住み着く。

 つまり、山に近づけば近づくほど、モンスターは強くなるのである。

 まあ、強いと言っても三位程度俺には問題は無いが。ふむ、鈴にはキツイか。


「鈴さんどうする? この辺のモンスターは強いみたいだけど?」


「小次郎さんが大丈夫な内は大丈夫だにゃ! それに鈴も強くなれる良い機会だにゃ!」


「ははっ! イイね! じゃあ、一緒に闘おう! 俺は鈴さんの支援にまわるね」


「了解にゃ!」


「無理だったら、すぐに下がってね」


「任せるにゃ!」


 前方に見えるのは隻猛牛せきもうぎゅう隻猛豚せきもうぶただ。方や黒い体に紅い模様の入った暴れ牛、方や手に棍棒を持ち二本足で立ち、黒い体毛、紅い目が特徴の大きな豚だ。

 どちらも名前に隻という文字が入っているようにこのモンスターは二頭一組で行動し、時に体の大きな牛に豚が跨って闘ったりするなかなか手ごわい相手である。

 そのことを知っているせいか鈴は口数が少なくなっている。緊張しているようだ。


 隻猛牛

 位階:三位


 隻猛豚

 位階:三位


 まあまあ、強いな。俺にとってはだが。


「鈴さん。俺も前にでます。行きますよ!」


「にゃ!? 分かったにゃ!」


 先に走り出した俺に続くように走り出す。よし、付いて来てるな。緊張が取れてればいいけど。


 俺は鈴がやりやすいように魔法を放った。


「【炎の槍よ、貫けフレイムランス】! 鈴さん、今だ!」


 敵の豚は腕に炎の槍を受けた事で棍棒を落としていた。腕には穴が開き、痛みに悶えている。その隙を見て俺は鈴に指示を出し、鈴もそれに従って向かってくれている。

 てか、速いな。何がって? 鈴の足の速さだ。

 すぐに距離を詰めると包丁を豚に振り下ろした。だが、力はないようで浅くしか切り裂いていない。あの肉厚は天然の鎧と化しているようだ。

 豚は無事な方の腕で棍棒を拾い上げると、その剛腕で以って力任せに振るう。

 ブンッ! あの腕から繰り出される攻撃は強力そうだ。だが、鈴さんも危なげなく躱していた。

 これなら大丈夫だろ。なら、俺は鈴の邪魔をしようとしている牛を仕留めるか。

 【操尾術】を使い、尾を伸ばし更に【鬼動術】を使い、尾を絡めて地面に引きずり倒す。


「お前の相手は俺だっ!」


 立ち上がった牛は狙い通り俺に目標を変更した一直線に俺に向かってくる。

 遅いな、余裕で避けれる。そう構えていたら急に加速してきた。


「ガッ!」


 ドンッという衝撃とともに宙に跳ね飛ばされた。

 くそ、何だこれ。……スキルか! 頭にきた。こっちも使ってやろうじゃないか!


「【狐火】」


 相手に幻覚を魅せる。今相手の周りをぐるぐると走り回っている俺が見えている事だろう。目線がキョロキョロと移動しているのがいい証拠だ。今の内に魔力を練り上げ、急所に狙いを覚める。狙いは首だ。一気に仕留める。


「【炎の槍よ、貫けフレイムランス】! 死ね」


 寸分違わず放たれたそれは肉の焼ける音と匂いを辺りに発しながら貫いた。


「さてと、こっちは終わったな。鈴さんはどうかな?」


 ふむ、まずいかな。いや、もうちょっといけるか? だが、鈴は大分息が上がっているように見える。対する豚は身体中に切り傷があるが、それも戦いながら治っていっている。片腕はすでに無いけれども出血は止まっているようだし、このままだと負けるな。


「鈴さん、一旦下がって俺がやる」


 俺の声が聞こえたのか鈴は大きく後ろに跳んだ。


「【炎の剣よ、斬れフレイムソード】!」


 もう一本の腕を狙って炎の剣を振り下ろした。しかし、豚はしっかりと反応して見せた。だが、元々のLvの差があるおかげで躱しきる事は出来ずに手傷を負い、棍棒は真っ二つに斬られている。


 それを好機と見たのか鈴さんが突っ込んだ。あとは任せても大丈夫だろう。俺は黙って観戦を決め込む。


「【二連斬】! 【二連斬】! 【二連斬】!」


 腕を霞ませ、ものすごい速度で包丁を振り続けた。そして、終わりは訪れた。


 あと少しで豚に止めを刺せるといったところで鈴の動きが止まったのだ。


「え! どうしたんだよっ!」


 俺の方に困ったような笑顔を向けるとこう言った。


「ごめんにゃ。張り切りすぎちゃったにゃ」


 仰向けに倒れる鈴。それに反撃を喰らわせようと腕を振り上げる豚。


 クソッ! 間に合え!


「『止めろぉぉっ!』」


 いつもよりも大きな声で叫んだ。そのおかげでビクッと一瞬動きが止まった。


「【軽身術】【鋼毛】【硬化術】」


 距離を詰め、彼女を守る盾として自らの身を使う。

 ガツンと伝わる衝撃。だが、不思議と痛みは感じなかった。


「『負けるかぁぁっ!』」


 押し返す。食いしばって足で踏ん張り、耐える。耐える。耐える。

 そして、均衡は崩れた。


 今度は俺の勝ちだっ!


 腕に喰らい付き、引き千切る。苦しむ豚に見向きもせずにそのまま首元に歯を突き立てた。


 その時の赤い液体は勝利の美酒というのに相応しく、なぜそのように感じたのか? 今の俺では分からなかった。 

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