壱拾巻
道中モンスターと戦ったり、崖の上にあった刀を拾ったりと色々なことがあったが、目的地に着くことが出来た。
ここは妖怪と龍の住む里である。この場所は周りを山で囲まれた平地であるため、様々な生き物が暮らしやすく、自然と生き物が集まって出来た里である。
だが、ただの集まりと言う事は出来ない。なぜなら、屈強なモンスターたちが住む山々に囲まれた里であるからだ。そこに住む者たちが只者であるはずがなかった。
この風土から、鉱石などを加工する製錬所、そこから武器や防具を創り出す鍛冶屋、そして傷付いた者たちを癒す医療機関などが主に発達していた。
だからこそ、師匠はこの場所を選んだというわけだ。
そして、この場所に俺は不思議な既視感を覚えていた。
街並みが似ているのだ。「何に?」とは俺が人として生きていた時の町の風景にだ。
木と土で造られた家々。そして、龍を祀るための祠や神社。多少の差異はあるものの似ているのだあの頃に。
戻って来たみたいだ。でも、今の俺の体は狐なんだよな。
「行くぞ」
「はい」
今の俺は師匠の弟子。それ以外考えるな。
連れられてやってきたのは、カーン、キーンと金属を打つ音が途切れることなく鳴り続けている里の一画にある鍛冶屋の中でも寂れたというかあまり人気のない店だ。暖簾には『唐傘と鬼の店』と書いてある。
唐傘と言えば妖怪からかさ小僧だが、やはりそうなのだろうか。ここまで来るの間にも色々な妖怪とすれ違った。河童や鬼、物が意志を持って動く付喪神、見た目では人間に思える者までいた。まあ、ここに居る以上ただの人間と言うわけはなそうだが。
と言う様に様々な者たちがいる以上何が出てきてもおかしくはない。それに師匠がわざわざここを選ぶのだ。危険はないと言って良いだろう。
「邪魔するぞ。ふん、相変わらず寂れてるな」
師匠は開口一番とても失礼なことを言った。この言動に慣れ始めている自分が怖い。
「うるせえ! って、おお! 銀じゃねえか。お前は相変わらず口が汚いな」
立ち上がりながら言うのは全身を赤い皮膚に覆われ、元は白であろうと思われる薄汚れた毛皮を着ている屈強そうな鬼だ。
「お前は相変わらず声がデカいな。だから、女に嫌われるんだ」
「う、うっせえ。それより用が無ければ顔を出さないお前さんが来るとは……何か用でもあるのか? もしかして、武器か? 俺らが作った武器が欲しいんだな! よし、すぐに用意してやる。待ってろ」
師匠を圧倒するほどの元気と勢い。言葉を返す暇さえない。分かっているのは師匠は口で言っても聞かない相手のときは必ず手が出るという事だ。
思った通り「ゴフッ」と小さく声を上げて尾で吹き飛ばされる赤鬼の姿が見えた。
「いってえ。何しやがんだ、このクソ狐!」
その言葉に反応して、尾を振り上げた姿勢の師匠からの威圧感が増した。
「ほう、まだ殴りたられないようだな。いいだろう。何度でも殴ってやろう」
「おいおい。冗談だよ、冗談。だから、その尾を下ろせ。な?」
その言葉に渋々といった様子で下げる。小さく舌打ちをしているところを見ると本気で殴りたらないらしい。全くこの暴力師匠は……。
「まあいい、早く奴を呼べ。お前では話にならん」
「相変わらずキツイことを平気で言う。全く」
赤鬼はぶつくさ言いながら、階段を上って誰かを呼びに行った。
「師匠、今のはどういった方なんですか?」
俺の質問に嫌そうな表情を隠すこともせずに店内の武器を見ながら言う。
「奴は赤鬼の力。声のデカい馬鹿鬼だ。それと今呼びに行ってもらっているのが唐傘お化けの翆。奴は睡眠馬鹿だ」
睡眠馬鹿? また変わった人が出てくるというわけか。類は友を呼ぶっていうしな。
「ふぁーあ。まったく、気持ちよく寝ていたっていうのに一体何なのさ?」
眠たそうな声で愚痴をこぼしながら、やって来たのはさっきの赤鬼もとい力さんと真っ赤な傘に二本足が生えた妖怪。あれが翆さんだろう。
傘の中央にある一つ目でこちらを見るとぎょっとしたように目を見開いた。
「な、なんで銀さんがここに……。まさか、今日は嵐でも起こるのか?」
「ふん。そのふざけた口を利けなくするぞ」
師匠は軽口に殺気で以て答えた。
「はは、相変わらずおっかない方だ。それで今日はどういった御用で?」
さっきまでの眠気など嘘のように明瞭な声で話し始めた。
「ああ、この馬鹿弟子に合う物を何か作ってくれ」
俺に尾を向けながら言う。二人はと言うと驚愕の表情を浮かべている。
「いやはや、時代は移り変わるものなんですね。あの銀さんがお弟子さんをお取りになるとは」
「驚いたな。さっきからそのちっこいのは気になってはいたが、お前の弟子だったとはな。で、名前は?」
「あ、小次郎って言います。よろ――」
「そうか! 小次郎って言うのか。よろしくな!」
「あ、はい……」
この人苦手かもしれん。
「銀さんのお弟子さんですか。さぞ、大変でしょう?」
「はい、そうですね」
しまった。つい……。
「後でどうなるか分かっているだろうな?」
はい、分かっております。くそ、翆さんはほくそ笑んでるし、狙ってたな。
「素直な方でからかい甲斐がありますね。では、本題に入りましょうか。どのような装備をお望みですか?」
ふっと真剣な眼差しが向けられる。さっきまで俺をからかっていたのが嘘のようだ。変わった人だ。やっぱり師匠の友人と言うのがよく分かる。
「ええと。いま刀を持ってるんですけど、毛皮でぐるぐると巻きつけてるだけなので持ち運びがし易く物を作ってくれませんか?」
翆さんは何やら考え込み、力さんは笑い出した。
「ガハ、ハハハ! お前さんその体でどうやって持つんだよ」
「うるさいですね。良いんです。いずれ使えるようになりますから!」
俺の言葉を聞いて、師匠は「ほう」と呟き、翆さんはにっこりと笑っている。さっきの笑みとは違い、裏が無さそうな笑みだ。
「ふふ、気に入りましたよ。私はその意気は買います。だから、その言葉を信じて、私たちが出来る最高の仕事をしましょう」
「お、おい。いいのかよ。そんなの作っても無駄になるじゃねえか?」
「それがお客様のご要望なら我々職人はそれに従うまでですよ。それに力、面白くはないですか?」
そう言って二人して俺をじっと見る。
「確かに面白そうだな。いいぜ、乗ってやるよ! んじゃ、そうと決まれば作り始めるぞ」
「ええ。それと、小次郎さんちょっと採寸を図らせてもらってもよろしいですか? あなたに合わせたものを作りますので」
二人の急な態度の変化に戸惑いながら答えた。
「え、はい。もちろんです。よろしくお願いします」
二人は手際よく作業をし始めた。師匠曰はく、こうなった二人は止まらないらしいので、やる事がなくなった俺たちは店を後にした。
外に出るとふと思いついた疑問を師匠にぶつけた。
「そういえば何を作ってくれるんでしょうか?」
「さあな。だが、お前にとって役に立つものが出来上がるはずだ」
迷いのない答え。その答えで何だかんだで二人を信頼していることが分かった。
「あと、どうして急にやる気になったんでしょうか?」
「ふん、そのうち分かるだろうな」
それっきり会話が途切れ、師匠は用があるとかで何処かへ行ってしまった。
「さてと、暇だし俺もどこかに行ってみるか」
まだ日は高く散歩には絶好の日和だろう。
俺は何が出来るのだろうと期待に胸を膨らませながら辺りを見て回った。




