九巻
俺は師匠とともに山道にいる。歩けど歩けど、木木木木木。何も変わり映えしない。それに師匠が近くにいるからか、モンスターが出てくる気配すらない。
俺たちが目指すのは御霊山を西に越えた先にある妖怪や龍が住むという里だ。そこでは刀が作られ売られているらしい。
「暇だな」
師匠のこの一言が主に俺の道中を混乱に陥れた。
師匠は尾に火を灯すと辺りに飛ばし始めた。
「何をしてるんですか?」
「少しモンスターどもを呼ぼうと思ってな。【狐火】を使った。モンスターの素材は刀を手に入れるうえで必要だから、お前も戦って取っておくと良い。それに暇だからな。面白くしてやろう」
あ、だめだ。こうなった師匠は止まらない。諦めて戦闘に備えよう。
「はぁ、どうも」
「ククク、そろそろ来るぞ」
ガサガサと音を立てて現れたのは白鬼猿と漆黒の大狼。猿が3頭、ナフィーが8頭だ。全く師匠も面倒なことを。
まあ、倒せるけどな。
もう前のような遅れは取らないし負けない。
「ここは馬鹿弟子に任せるとしよう。ボス猿はいないようだしな」
「はい!」
狙いを定めて駆ける。多数対一の場合にまずやっておくのは各個撃破するための時間を稼ぐことだ。
「【狐火】。【炎の槍よ、貫け】」
ナフィー1頭を焼き尽くす。だが、完全には倒れてはくれないので、苦しんでいるところに喰らいついてトドメを差した。
「まずは1頭」
「馬鹿者! 焼いてしまっては素材を採ることが出来ないだろうがっ。牙と爪でやれ」
全く面倒な師匠だ。まあ、やってやろうじゃないか。
まだ他の奴らは【狐火】の幻覚の中だ。時折解除して俺の姿を見せているため、魔力と体力を節約できている。
だったら。
「【硬化術】【鬼動術】【操尾術】喰らえ」
節約した分で他のスキルを発動する。
三本の尾を操り、1頭を弾き、1頭を硬化させた尾で貫き、1頭を巻き取る。巻き取り距離を詰めたナフィーには爪を突き立て、固定し噛み殺す。
「次っ!」
殺した相手を放り投げると【狐火】を敢えて解除して誘われてきたナフィー2頭を相手取る。
「【軽身術】【即神術】行くぞ」
足に力を籠め、一気に距離を詰める。横に回り込み胴体に喰らいつく。迫るもう1頭は尾を使い、後ろ脚をからめ捕り、近づけさせない。
牙を突き立てている相手から骨の折れる音がし、動かなくなる。さて、次はお前だ。
尾から逃れようともがいているナフィーを見下ろし、爪を振り下ろした。
「あとは、ナフィー4頭に白鬼猿が3頭か。まだまだ多いな。もっとペースを上げるか」
再び【硬化術】を使い、【操尾術】で操り、正確に急所を貫いていく。これでナフィーは全滅、猿は今の俺の力では肉の壁が厚すぎて急所を一突きとはいかないため、脚を一本ずつ貫いて使えなくして力の節約のため【狐火】を解く。
そして、脚を抑え、蹲る猿が3頭。
俺は完全に捕食者だろう。牙と爪からは血を滴らせ、白い毛皮は傷を負ってもいないのに真っ赤に染まっている。
「ガアアアァァッ!」
吠えて威嚇し、出来るだけ戦意を削いだ。
そして、安全を確保したうえで牙を突き立てた。
悲鳴が森に響いたが、そこには捕食者しかいないのだ、逃げられるはずもない。
「ふん、時間をかけすぎだ」
「す、すみません」
「まあいい。肉の部分は食べて、毛皮は持っていくぞ。後臭いから雪で血を落としておけ」
「はい」
言われた通りにする。がつがつと食いながら、川の部分は綺麗に残す。そして、食べ終わるとすぐに血を落とす。今やっておかないとカピカピになって、落ちにくくなる。魔法で雪を溶かし、洗い落とした。一緒に毛皮を綺麗にすると、体に巻き付けるように持ち運ぶ。
俺は毛皮を巻きつけながらクエストの事を思い出していた。
確か、御霊山には刀があるんだよな? でも、師匠はそのことを知っている感じではない。なら、ここでは作ったり売ったりはされていないという事か。うーん。何かないかな? ヘルプ? ヘルプがあったか! ちょっと見てみるか。
どれどれ。採取、収集系のクエストの場合、マップを表示することが出来、そこには目的物の位置が記されていると。狩猟系のクエストには敵の弱点が表示されると。ただし、敵によっては弱点が表示されないことがあると。
なるほど、なるほど。って馬鹿か俺はっ! これ使えば一発でわかるじゃねえか。
「マップ表示!」
現れたのは一つの矢印と赤い点が書かれた正方形の図。これはどういう風に見るんだ?
首を振ると矢印の向きが変わった。
ほう、この矢印は俺で赤い点はおそらく……刀だ! そうと決まれば早速。
「師匠、師匠! ちょっと寄りたい場所があるんだがいいか?」
「……なんだその気分の上がり様は、気持ち悪い。別にかまわない。好きにすればいい」
「ありがとうございます!」
了承を得ると、意気揚々と目的地に向かっていく。まあ、了承取らなくても行ってただろうがな。
そして、目当てのものを見つけた。だが、平面のマップを見ていたためある問題が出てきた。
「何であんなところにあるんだよ」
俺は刀がある場所を見て、絶望していた。
その場所と言うのが崖の切り立ったところに刺さっていたからである。
「確かにあれなら誰にも盗られることはないだろうけどよ」
そう、俺自身どうやって取ればいいかわからない。考えるんだ、俺!
「……思いついた!」
一つ、魔法で落としてみる。
んー、やっぱ駄目だな。あの高さだと落としたら壊してしまうかもしれないし。折角手に入れたのに壊れてましたとか洒落にならん。
二つ、師匠に取ってきてもらう。
まあ、師匠ならできるだろう。だが、問題は了承してくれるかどうかだな。
「師匠。あの刀――」
「却下だ」
「え、まだ何も……」
「却下だ」
この通りである。可愛い弟子がこんなにも頼み込んでいるというのにこの人は鬼か何かなのだろう。分かってはいたけど。
三つ、自分で取りに行ってみる。
正直これしかないかもしれない。それか、諦めて上から下るように取るか。いやいや、そんなことが出来るわけがない。見つけてしまった以上我慢なんてできるわけがない。いや、してはならないのだっ!
そうと決まればやるか!
「【軽身術】【即神術】」
頭をフル回転させて、どの岩を足場としたらいいかを導く。
一歩、二歩、三歩と駆け上がっていく。
足場がねえっ!
だが、こういう時に必要なのは冷静な判断力だ落ち着け、落ち着け。
「よし、【硬化術】【操尾術】」
尾を硬化させて、岩肌に突き刺して、登って行く。
ここから一気に行くぞ。
「【鬼動術】」
三本同時操り、突き刺す。それを起点に身体を押し出す。そのタイミングは足場を蹴って飛ぶのと合わせる。成功だ。
「届けぇっ!」
尾を伸ばし、刀を巻き取る。
「よっしゃあ。ついに手に入れたっ!」
だが、完全に俺の体は空に飛び出していた。
足場がないっ……!
これはまずいぞ。どうする。この高さじゃあ【硬化術】使っても助かるかどうか。
そう思っていると横目にちらりと高速で動く白い物体が映った。
「あれは師匠?」
「馬鹿弟子がっ!」
尾を伸ばし俺の体をひょいと引き寄せた。自分の体の上に乗せるとさっと地面に舞い降りた。
その瞬間だ。間髪入れることなく、俺を振り落とし、説教が始まった。
「全く、お前という奴は詰めが甘いんだよっ! いいか、油断した奴からこの世は脱落していくようになってるんだよ。常に気を抜くな、馬鹿者がっ!
それに毎回毎回――」
怒涛の如く始まった説教は長くなるのでここらで割愛しよう。
なんてったって気づいたら陽が暮れていたからな。
そして、鉄拳制裁付きだったおかげで俺の体は半分以上地面にめり込んでいた。
師匠、あなたの弟子が死にかけてますよ。
師匠の拷問から解放されるとはたと気づいたことが一点。
「刀握れねえじゃねえかっ!」
そう、この狐の姿だとどうあっても握って振り回すことなんてできやしない。出来ないのだ!
「当たり前だろ。何を分かり切ったことを。用が済んだのなら行くぞ」
俺の熱意は師匠には伝わらなかったようだ。俺はショックで動きたくもないというのに。
「何をグダグダしている。さっさと立て!」
そして首根っこを咥えると引きずるように立ち上がらせた。睨みがいつもより三割増しなので、仕方なく自分の足で立ち上がり、とりあえず刀は咥えて持っていくことにした。
「そんな持ち方では邪魔にしかならん。捨てろ!」
「嫌です!」
刀をぽとっと地面に落とすことで気付く、確かに邪魔だ……。
「他に持ち運ぶ方法ってないんですかね?」
「どうしても持って行きたいならさっき取った毛皮を使え。それで自分の体に固定して持ち運べ。里に降りたらちゃんとしたものを手に入れればいい。あそこなら大体の物は揃っている」
こういうわけで俺は一時刀の事はおいといて、里に向かう事なったのである。
祝お気に入り100件超え!
皆様ありがとうございます!
という事で私にしては早いペースで更新いたしました。まだまだ至らない点が多々あるとは思いますがどうぞよろしくお願いします。
次話はいつも通り12月8日になります。




