その⑮ 雪女
今日は気温のわりにはずいぶんと冷えている気がするな。
そう思ったときは、そっと周りを見渡してみてほしい。
電線の上か、小高い木の枝の上か、
きっと彼女が歌を口ずさんでいるから。
腰まで延びた艶やかな青紫の髪をそよ風に揺らし、
襟に葵色をあしらった白い着物を纏う。
嫌でも目に入る口元の紅が麗しい和風美人。
それは雪女とも呼ばれる冬の精霊の一種だ。
旅人を凍りつかせて殺してしまったとか、
残酷な昔話や伝承もあるけれど、実際の彼女はそんなことはしない。
でも彼女の歌声を聞いた生き物は体温を奪われてしまう。
それは冬の間、生き物たちを冬眠という眠りに誘うための歌。
暖かくなるまでゆっくりとおやすみ、
そういった優しさがこもった歌なのだと僕は思う。
けっして命を奪い取るものじゃない。
結果として命を失った旅人がいたとしても、
それは重なった偶然がもたらした、ただの不幸な事故だったのだ。
まるで、つららで作った風鈴でも鳴らしているかのような
その美しい歌声に耳を傾けながら、
まだ春は遠いいなと思う昼下がりだった。
明けましておめでとうございます。
本年もつたない文章にお付き合いくださいませ。
さて、気がつくと総合評価が0→6ptになっておりました。
どなたかが評価してくださったのか、
大変ありがとうございます。