その⑭ 始まりの歌
一年の始まりの日である1月1日は
僕たち人間にとっても大事な日だが、
精霊、妖精たちにとってもそのようだ。
ここ数日、この辺りをすべる精達の女王の姿が見えない。
風の噂では
新年を迎えるための儀式に参列するため
ここ北海道の峰である大雪に向かったのだという。
昨晩、カウントダウンを経て新年を無事に迎えた。
仕事が終わった帰り道
午前1時30分頃・・・静かだ、精達の気配がまったく無い
まるで全ての生命が息を潜め
その存在を隠しているような・・・そんな気分さえ覚えるような
でも、それは突然に始まった
風に乗って、どこからか聞こえてきた歌声
それは今まで聴いたことの無い言語で紡がれる
それでいて、今まで聞いたどんな歌よりも
美しく、静かな歌声・・・
同時に、今まで眠っていた世界が目覚めた
木々の精が、雪の精が、風の精が
ありとあらゆる生命が、その歌へと向かって
メロディーを奏でる・・・
いつか聞いたことがある・・・
全ての精たちは、天と地と、移り行く時に祈りをささげ
世界が一つになることで、新しい年を迎え
その時間を慈しむのだという
新しい時の訪れを知らせるための歌
世界が一つになるための歌
世界は昨日、一つの終わりを告げ
そしてきっと・・・今日、再び始まったのだ