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携帯電話のlast day

作者: Liz×はづき

 目を開ければ、そこは何も見えない暗闇の世界だった。これで一体何回目だろうか。

「お願い…あたしを捨てないで……」

 女の声が遠くの方で微かに聞こえる。声は徐々に大きくなる。

「誰?」

 自分の声が(こだま)として聞こえる。

「お願い……あたしを…あたしを捨てないで」

「君は一体誰なの?何回も俺を此処に連れているのは君なの?」

「そう。あなたに言いたい事があるの。あなたが今使っている携帯電話をこれからも長く大切に使って欲しいの」

「俺の携帯電話…を?」

「そう。あなたは唯…唯携帯電話を長く使ってくれればいいの」

「携帯電話って…携帯電話に何かあるのか!?」

「じゃないとあたしはもう終わりなの…だから…だから…」

 徐々に女の声が小さくなっていく。

「終わりって…どういう事だよ!せめて正体だけでも見せてくれっ…」

ガタン

 急に無重力が無くなり、俺はいつものように落ちていく。

「おい、答えろぉおおおおお!!!!!」




「はっ」

 目を開ければいつも変わらない俺の部屋の天井が映っていた。

「クソ…また夢かよ。一体何なんだあいつは」

 毎回俺は謎の女の夢を見る。内容は今日解った事で携帯電話を長く大切に使えっていう事。しかもいつも肝心の正体を見せろという所で落下というパターンで夢は終わる。

「携帯電話って何なんだよ。何かの呪い?」

 机に置いてある、傷だらけのスライド式携帯電話を手に取る。

「親に相談してみよっ」

 枕の横に置いてあるスライド式携帯電話をポケットに入れ、一階のリビングへと入る。

「あら、おはよう」

「おはよう。ねぇ母さん、最近変な夢ばっか見るんだけどさ」

「変な夢?勉強で疲れてるんじゃない?きっとそのせいよ」

「そうかなぁ……」

「そうよ。さっ、早くご飯を食べて」

 母親はキッチンで俺の弁当を作りながら言う。テーブルには、ご飯、みそ汁、目玉焼きそしてコップには麦茶を注がれていた。俺はいつも通りお茶を一杯飲んで食べる。

 急いで支度をし、リュックを背負って玄関を出る。

「じゃ、いってきま~す」

「いってらっしゃい」

 こうして高校三年生、氷野湖(ひのうみ) 斐冴(かいさ)の何気ない一日が始まる。学校に着いて、授業を聞いて、友達と昼飯食って、放課後は一時間受験勉強をして帰る。いつも通りの学校生活を終え、俺は帰宅する。いつもは真っ直ぐ家へ帰る予定だったが、今日は何故か携帯ショップへ寄りたかった。いつも帰る道を外れ、1km程進んだ先に携帯ショップがある。俺の携帯電話は今月で確か3年半。自分でもよく使ってると思う。しかし流石にそれ程長く使っているといろいろ不便な点が出てくる。充電は一日あまり使っていなくても半分程度になるし、稀に勝手にシャットダウンする。一番嫌なのはボタンが押しづらくなった事。強く押しても反応しない時があるから度々苛立つ。親に何度も「携帯変えよう」と言うが答えはNo。壊れたら変えるという意味解らない事を言うから本当に困る。クラスの皆を見ればスマートフォンや新種の携帯電話ばかり。クラスの中で3年半も使っているのはせいぜい俺ぐらいだろう。

「いらっしゃいませ」

 店内に入り、早速新種の携帯電話へと向かう。今流行のスマートフォンや今人気急上昇中のノーデン。この携帯電話は態々充電する必要が無く、予めコンセントに充電器を差しておくと、外出中突然携帯電話の電池が切れそうになったら勝手に充電してくれるという携帯電話が今流行(はや)っている。他のを見ても若干古いのはあるが、俺の携帯電話よりは確実に新しいだろう。

「一番安いのでも一万円か。変えたいけど多分Noって言われるだろうな」

 店内をぐるっと回り、入口に置いてあるカタログだけ貰って出た。歩きながらカタログを開くと、どれも欲しくなる。

「早く買い変えたいなぁ~」

 斐冴はその言葉がなかなか頭から離れなかった。


 家に着き、二階の自室へと入った。私服に着替え、椅子の背凭(せもた)れによっかかりながら携帯電話を見つめる。よく見れば、剥げている箇所が所々ある。

「本当にぶっ壊れるまでは母さんは変えてくれないのかなぁ」

 携帯電話を机に置き、一人カタログを見ていた。



「げっ、もうこんな時間?」

 時計を見ればあれから二時間俺はカタログを見ていた。受験生だから勉強しないとと思ったが今日に限ってやる気が出ない。時間的にご飯だし。ご飯食べてから勉強しようと斐冴は部屋を出た。すると、斐冴の部屋に一機携帯電話が置かれたのを確認し、窓を透りぬけてきたのは神様と言っていいのか分からないがそれっぽい人が入り、斐冴の携帯電話を取る。

「ほれ。出てこい。ふー」

「きゃっ!」

 神様が携帯電話に向かって一息吹くと、携帯電話からオレンジの粉が落ちる事無く浮遊状態を保ちながら出てきた。

「お主、何か悩みがあるじゃろ?」

「あなたは…」

「わしは自分で言うのもなんじゃが、一応神様じゃ」

「か…神様!?」

「そんなに驚くんじゃない。お主、携帯電話(この)(あるじ)に何かさせておるじゃろ?」

「は、はい…あたしを捨てないでって毎日のように夢の中で言っています」

「ほぉ~。どうしてそんなに捨てられたくないんじゃ?」

「だって…あたしは次捨てられたらもう携帯電話として役目を終えてしまうかもしれないからです。あたし達はせいぜい3回変えられたら次はもうないに等しい。あたしはもうこれで3回目です。1、2回目は真面に大事に使ってくれなかった。けど今回は斐冴(ご主人様)携帯電話(あたし)をこんなに長く、そして大切に使ってくれました。もう寿命はそんなに無いかもしれないけど、一日でも長くご主人様と一緒にいたい。けどご主人様は携帯電話を変えたくてしょうがない。だからあたしはそれを阻止するためにこうして訴えてるんです」

「なるほどな。じゃあお主は変えられたくない訳じゃな?」

「まぁ、はい」

「じゃあこれはどうだ。明日一日だけお主を人間にさせ、ご主人様に今までの感謝を伝えるっていうのはどうじゃ?」

「あたしが…ご主人様と話す?」

「そうじゃ。携帯電話のまんまじゃ伝わらずに終わってしまうじゃろ?お主だって今までの感謝を伝えたいんじゃろ?」

「は、はい…」

「ならそれを明日叶えさせてやる。じゃが条件付きでな」

「じょ、条件…」

「条件は一つ。お主は明日で終わるのじゃ」

「明日で…終わる?」

「そう。つまり明日でお主とご主人様との関係は終わりという事じゃ」

「そ、そんな!」

「嫌ならいい。感謝を伝えれないまま壊れるまで使われるというのでもいいぞ?」

 女は暫く考える。

「お…お願いします!」

「本当にいいんじゃな?」

「はい」

「分かった。じゃあ明日ご主人様が起きてからスタートじゃ」

 そう言うと神様は一瞬で消えてしまった。同時に女も携帯電話の中に入った。

ガチャ

 直後に斐冴(かいさ)がコップを持ちながら入ってきた。コップを机に置き、カタログを取り出す。

「まさか、あの母さんが変えていいなんて言うなんて信じられない。あれ程ダメって言ったのに」

(神様の言う通りだ。あたしは明日で終わりになってる)

 携帯電話の奥深くで女は驚く。勿論女の声は斐冴に届く訳がない。

「携帯は後で決めよう。さてさて勉強しなくちゃ」

 斐冴は参考書を取り出し、取り掛かる。




 翌日午前8時。カーテンの隙間から漏れる光が部屋を明るくする。今日は土曜日、勿論学校は休みだ。

(今日であたしは終わるのね)

 携帯電話の待ち受け画面から見える斐冴の部屋の天井。これを見えるのも今日が最後だ。

「ん?」

 斐冴(かいさ)の声が聞こえたと同時にあたしにとって最大の日が始まる。

ピカーン

 突如オレンジの光が女を包む。それは斐冴から見れば携帯電話がオレンジ色に光ってるように見えた。しかし斐冴は携帯電話と反対側を向いている為気付いていない。光は女を浮かばせ、待ち受け画面へと移動させる。そして待ち受け画面に手が触れた時、光は更に強くなり、視界が一気に眩しくなった。目が開けられる程になった時、女はゆっくりと目を開けるとそこはいつも見る天井では無く、斐冴がこっちを見て驚いていた。目の前にいたのはオレンジ色の長い髪をした、やや細い体型の女性だった。

「アッ…アアッ……」

 斐冴は口を開いたまま唯驚いていた。

「ご主人様……」

「……へっ?」

「あたし、誰だか分かります?」

 斐冴は顔を横に振る。

「あたしは……ご主人の携帯電話です」

「お……俺の携帯、電話?」

 時間が経つにつれ、落ち着いてきた斐冴はやっと喋る事が出来た。

「はい。今日はご主人様と一日一緒に居させてもらいます。宜しくお願いします」

「お…おぅ。と、取り敢えずその……主人って言うの止めてくれないか?結構違和感あるんだ。そ、そうだ!互いに呼び名を決めよう。まず君…いや、あなた…いや、ケータイ……」

「何でも良いですよ?ご主人様の好きな名前で」

「そう言われてもなぁ。なんか人の様な名前が…」

 斐冴は周りを見ると、本棚にあるバトル漫画で目が止まった。そうだ!漫画のキャラクターの名前にすればいいんだ!でも何しよう…。

 暫く考えた末、漫画のキャラクターで斐冴の好きなキャラクターの名前が浮かんだ。

「そうだ!ナダメだ!」

「ナダメ…いい名前ですね。はい、分かりました!ではご主人様については…」

「俺は普通に斐冴でいいよ」

「そ、そんなっ、ご主人様を呼び捨てにするなんて」

「ナダメッ」

「は、はいっ!」

「俺の名は?」

「……か……かいさ……」

「そう、これからそう呼んでくれよ?」

「は…はい……」

 ナダメは少し顔を赤くしながら答える。

「さて、早速だが一つ大きな問題がある」

「な、何ですか?」

「携帯電話を操作出来ないって事だ」

「……」

 ナダメは自分の体を見て言葉を失ってしまった。確かに人間になってしまった携帯電話(ナダメ)ではメールや電話が出来ない。

「ど、どうしましょう……」

「まぁいい。一日位は見なくたって生きていける」

「そう言えば斐冴様、朝ごはんは?」

「斐冴様…なんかまだ違和感感じるけどいっか。あぁそう言えばそうだな。おまえは食わなくていいのか?」

「あたしは元は携帯電話なので充電でOKです。確か背中に差しこみする所があると思うのですが…」

「どれどれ……」

 ナダメは手で後ろに移動させ、差し込み口を探す。斐冴も一緒に探す。

「あ、あったあった。ここだな。で、今は充電しなくてもいいのか?」

「斐冴様が寝る前に充電してくれたので大丈夫です」

「そっか。じゃあ俺は適当に飯食ってくるよ。ナダメはそこにいて」

「解りました」

 斐冴は部屋を出る。一人になったナダメは斐冴の部屋を見回った。様々なグッズが置かれていた。中には10年前の雑誌が積み重ねてあった。本棚には漫画があり、中には子供向けの漫画もあった。本棚の上を見ると、自由研究のまとめである我が町の生態調査と書かれた模造紙が置いてあった。模造紙を取り出すと、斐冴と一緒に小魚や水中生物が沢山入っている写真が貼られていた。机を見れば受験生とあって多くの参考書が置かれていた。それぞれの表紙には有名な大学名が書いてあった。ナダメは日頃斐冴が携帯電話で調べているので、よく知っている。机に置いてある本を整理していると一冊のカタログが机の本棚から落ちてきた。

「これは……」

 ナダメはカタログを手に取った。確かこれは昨日斐冴様が貰ってきたカタログ。表紙を捲ると最新の機種がずらりと掲載されていた。

「今のあたしよりも凄い機能が備わってる…やっぱりあたしはもう買い変えないといけない時期なのかしら…」

 ページを捲れば捲る程、自分は時代遅れなんだが思い知らされる。

「やっぱりあたしはもう古いんだ…」

 静かにカタログを閉じ、溜息を吐く。

「待ったか?」

 斐冴がドアを開けて入ってきた。

「ううん。全然待ってないよ」

 ナダメは笑顔で返しながら背後でカタログを机に置く。

「そっか。じゃあこれからどうする?俺はずっと勉強するけど…」

「斐冴様が勉強するならそれでいいですよ。あたしはずっとここに座ってますから」

「そっか。言いたい事があったらいつでも言えよ」

「はい」

 ナダメはベッドに座る。斐冴も椅子に座り、参考書を開く。その時は空は少し曇が目立っていた。




 午後0時。

「う~、もうこんな時間か」

 数秒背伸びし、参考書を閉じる。

「なぁ、ナダメ!午後はどっか行かねぇか?」

「へっ!?」

 突然の事に驚くナダメ。

「で、でも斐冴様、そんな事をしてもいいのですか!?」

「なんでさ?」

「だっていつも斐冴様は午後勉強をしているじゃないですか!しかも受験生では……」

「堅苦しいなぁナダメ~。今日は夕方まで両親が仕事でいないんだ。偶には数時間位遊んだっていいだろ?」

「それはいけません!幾ら何でも斐冴様それは…」

「別にいいだろ!?ナダメは真面目過ぎるんだよ。それに今日はおまえと遊びてぇしな」

「そ……」

 叱ろうとしていていたナダメだったが、斐冴の発言に言葉を失った。

「あたしと……ですか?」

「そうさ。だって今日だけなんだろ?こうしていられるのは。折角自由になれたんだ。行きたいとこ言えよ」

「そ、そんな急に…」

 ナダメの顔は一気に真っ赤になった。

「まぁ昼飯食ってる間に考えておけよ」

ガチャ

「どうしよう……」

 ナダメは暫く顔を真っ赤にしていた。外は太陽が雲に隠れようとしていた。




「どうだ?行きたいとこ決まったか?」

「はい!決まりました」

 ナダメは笑顔で答える。

陵羽土(りょうばど)はどうでしょうか?」

「陵羽土!?あそこ工場ばっかしかねぇぞ?」

「あたしにとっては思い出の場所なんですよ」

「そっか。ナダメが言うなら仕方ないか」

 二人は部屋を出て、家を出る。

「ちょっと曇ってるな。雨降らなきゃいいが…」

 外はどんよりと厚い雲が覆っていた。

「大丈夫です。あたしは雨で故障するような器械ではありませんから」

「そっか。じゃ、行こっか」

 家を出て15分程にある最寄駅に乗って1時間ちょっと。周辺が工場しかない陵羽土(りょうばど)駅に二人は着いた。下車すると排気ガスの臭いが充満していた。

「久しぶり~、この空気」

「そうか?ゴホッ、俺には結構苦しいんだが、ゴホッゴホッ」

「そうですか?あたしには丁度良いですよ?苦しいなら他の場所にしますか?」

「いや、ナダメにとって思い出の場所ならこれくらい我慢できる、ゴホッ、ゴホッ」

「無理しないで下さいよ。なんなら場所変えますか?」

「いや、いいよ。大丈夫だから」

「ほんとですか?」

「あぁ、大丈夫だ。行こうぜ」

 二人は歩道を歩く。道路には工場の町と言うのもあって大型トラックが多く走っている。周りを見れば大手の会社の工場が数多く建てられていた。



 暫く歩いていると、ナダメはある工場で止まった。

「懐かしい」

 ナダメが止まった工場は他の工場よりも一回り小さい工場で、錆びている仕切りの柵や建物の錆び具合が古さを感じる。ナダメは柵の隙間から覗くと、遠くに携帯電話が無残にも外に山積みされているのを見る。一緒に見ていた斐冴は尋ねる。

「ここに何か思い出があるのか?」

「はい。ここは……よくお世話になってる工場です。あたしは斐冴様が購入される前はここで廃棄されました。あの山積みされた携帯電話の中にあたしはいました。ここでは使えなくなった携帯電話を再利用し、新たな形でまた市場へと出るのです。しかし一部生まれ変われない物もいるんです。その物達は生まれ変わらずに処分されます。その処分されるラインって言うものがあるんです」

「ライン?」

「はい。そのラインはおよそ3回。3回再利用されたら次はないのです。あたしはこれで3回目。なので次は無く、処分です。だから斐冴様に買われる前、なるべく長く使って欲しい人に買って欲しかったのです。そうしたら運良く斐冴様に出会え、こうして今日(こんにち)まで斐冴様はあたしを使ってくれました。だいたいの人間って1年半、良くて2年で買い換えるんです。1、2回目は正しくその期間の間に変えられました。ちゃんと使ってくれればそれ以上使えるのに人間たちは乱暴に使うから壊れやすいのです。そして今回もどうせあたしは乱暴に使われ、処分されるのだと思っていました。最後くらい長く使って欲しかったらあたしは毎晩斐冴様に声をかけました。

「じゃ、毎晩夢の中で言ってたのは…」

「はい、あたしです。でも唯一あたしが斐冴様と話せるのはこの時間しかないのです。迷惑かけてごめんなさい。けど今思えば斐冴様はあたしを3年半も使ってくれました。もうあたしはそれで十分です。だから――――――――」

「え?」

 ナダメは静かに斐冴の唇へと触れた。

「す、すみません。あたしこういうの言葉に言えないものですから…」

「そ…そっか」

 斐冴は人生で初めてのキスに少々戸惑っていた。

「ねぇ斐冴様…もう一つお願いしてもいいですか?」

「な、何?」

「斐冴様は本日携帯電話を変えるんですよね?」

「あ、ああ……」

「なら話は早いです。携帯電話を変える際、あたしを……携帯電話(あたし)をちゃんと店に出してくださいね。斐冴様は物を捨てられない性格ですよね?」

「何でそれを……」

「斐冴様がいない間に見つけちゃったんです。10年前の雑誌を。普通小学生の時に買った物、特に雑誌を捨てれないのはあたしの理論上、物を捨てられない性格である証です。あたし今の状態のままで生きていくのは嫌です。だったら皆と一緒に天国で会いたいです。だからちゃんとお店の人に出してくださいよ」

「ナ…ナダメ……」

「今まで本当にありがとうございました。あたしは斐冴様に会えて嬉しかった」

 すると突然ナダメの体が光始めた。

「時間が来てしまったようですね。ちゃんと……出してくださいよ」

 その言葉を最後に光はナダメを包んだ。光の塊となったナダメは、ゆっくりと斐冴の胸の位置に移動する。斐冴は両手で光の下に置く。ゆっくりと光は斐冴の手元へと降り、光が一瞬で消えるといつも見るスライド式の携帯電話になっていた。斐冴は携帯電話を大事にポケットに入れた。その時空は今にも雨が降りそうだった。



ザァアアアアアアアア

 電車を降りると外は大雨だった。屋根に激しく雨粒が当たり、道路には水溜まりが出来ていた。

「どうしよう…夕立ならいいんだけど…」

 夕立だと信じていた斐冴だったが、駅内のテレビをたまたま見つけ、見ていると雨は今夜遅くまで降ると気象予報士が言っていた。

「マジかよ…こうなったらっ」

 斐冴は大雨の中走っていった。大粒の雨が降る中、前面は僅か数十秒でびしょ濡れになった。

「このまま家まで…うわっ!」

 家まであと500メートルまで来た頃、足が凭れ、斐冴は濡れたアスファルト上で転ぶ。その際携帯電話がポケットから飛び出し、運悪く水溜まりに入ってしまった。

「イテテテテ…どうしてこう転ぶかね…。あっ、俺の携帯電話!!!」

 斐冴はすぐさま携帯電話を水溜まりから取り出す。スライドすると待ち受け画面は表示された。

「良か…った」

 斐冴は立ち上がり、手に持ったまま家まで走る。



「おかえりなさい。あんた何処行ってたの!?」

 家に入ると仕事から帰ってきた母さんが心配そうな声でリビングから出てきた。

「ちょっと買い物に行こうとしたら雨にあたったから帰ったんだよ」

「早くシャワー浴びてきなさい!風邪ひくわよ」

「へぇい」

 斐冴はシャワーで濡れて冷えた体を洗い流す。



 体を洗い終え、着替えた斐冴はリビングに入る。

「斐冴、早く準備して」

「何で?」

「何どぼけてんの?携帯電話買い変えるんでしょ?」

「あぁそれ?それならまだいいよ。ぶっ壊れた時に買い変えるよ」

「あら、あれ程変えたいって言ってた人が。どうしたの?」

「別に何でもねぇよ。気分が変わったんだよ」

 斐冴は部屋を出て、玄関に置いてある携帯電話を持つ。

「わりぃが、まだまだ変えれねぇわ。壊れるまで宜しくな」

 斐冴は携帯電話をポケットに入れ、二階へと上がっていった。

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