YASHIKIの懺悔
※いでっち51号さん主催「☆STAND UP SPEECH HERO☆」参加作品です。
※マイクは立ちマイク使用です。
YASHIKIが小走りで舞台へ。
そしてマイクの前で一回転、二回転する!
「皆さん、こんばんは!
再びこのYASHIKIが皆さんのお相手を務めさせて頂きます。
前回のスピーチが想像していた以上に好評だったので、
調子に乗って第二弾のスピーチを披露する事にしました。
でも同じネタを二度やってもしょうがないよな!
だから今回は……YASHIKIの懺悔タイムとするぜっ!」
相変わらず突拍子もない事を言うYASHIKI。
そのテンションに当然、観客もついていけず、
会場は「シーン」と静まりかえった。
だがYASHIKIは怯まない。
相変わらずハイテンションでハイテンポでシャウトする。
「今回のスピーチの題材は……。
ズバリッ! YASHIKIの懺悔ですっ!
今でこそこのオレ――YASHIKIは、『大物プロデューサー』として、
世間で扱われているが、若い頃はもうそりゃ酷かった。
もうね! アナログ時代だから、ギリギリ赦されてたけど、
今の時代じゃ完全にOUT!
炎上死という新たなジャンルが開拓されても、おかしくないぜっ!」
懺悔タイムの筈なのに、YASHIKIは何処か嬉しそうだ。
「まあオレも若い頃は~、みたいな事は言わないよっ!
でも正直、今から思い返せば、
『天才ピアニスト』や『天才アーティスト』とかの称号に乗っかって、
ただ好き放題していただけ、かもしれない。
だけど五十歳を過ぎた今だから思う事もあるよ!
だからこの場で過去の悪行を懺悔させてもらうぜっ!!!」
懺悔するにしては、少し、いやかなり態度がでかい。
だが世界は広い、こういう懺悔人が居ても良いかもしれない。
ほら? 今は多様的な時代だからね!
「では有名なカレー事件について懺悔させてもらうぜ。
オレは一見すると何でも出来る、と他人に思われがちだ。
確かに学生時代、勉強もスポーツも良く出来た。
こう見えて元サッカー部だ。
だけどよ~、料理に関してはまるで駄目、駄目、駄目ぇっ!
過去にレトルトカレーを「電子レンジに入れて“爆発”させた」事もある。
カレーは作れないけど、カレーは大好きで若い頃はよく食っていた。
そこであのカレー事件が起きたっ!」
ここで一呼吸置くYASHIKI。
それからやや早口でカレー事件について語り出す。
「ある日、いつも食べているカレーをスタッフが購入。
んでオレが食べたところ「たまたま20倍くらい辛いカレー」だった。
通常のカレーと見た目が変わらなかったから、
普通に辛いカレーを食ったんだが、もうこれがマジで失敗。
辛さって後から来るジャン?
もうそれが辛くて、辛くてさ。
んでリセットしようと思って、家に帰ったってのが真相。
でもさぁ~、コンサートのリハーサルをキャンセル。
公演をキャンセルしたという話はデマよ、デマ、デマ!
なんかさ~、色々と話に尾ひれついて伝説化した感じ。
正直、迷惑もしたけど、話的にはおもしれえから、
オレは長らくこのカレー事件の真相を語らなかったんだよ。
でも流石にこのくらいの年齢になると、
「慎み」みたいなものも出て来て、
ある時期からこの「カレー事件」とか一部の都市伝説の釈明してる感じ!」
ここでYASHIKIがやれやれと肩をすくめる。
「でも世間を騒がせたのも事実。
後、いくら辛いからといって、
仕事をほっぽり出して帰るのは良くないね。
だから今では反省してまーす! ご・め・ん・な・さ・いっ!」
そう言って、YASHIKIがマイクの前で一度、二度と頭を下げる。
相変わらず観客は静まりかえっている。
この乗りに多くの者が反応に困っていた。
だがステージ上のYASHIKIは、とても楽しそうだ。
それからYASHIKIは、軽快なタップダンスを刻み込む。
観客は完全に置いてきぼり状態だ。
そんな中でYASHIKIの二度目の懺悔タイムが始まる。
「では次の懺悔を始めるぞぉっ!
次なるお題は「YASHIKI 皮袋事件」だぜっ!」
自分であえてこの件に触れるのか!
観客に居る中高年層は、思わず内心でそう突っ込んだ。
この「YASHIKI 皮袋事件」は今から約三十二年前に起きた。
1994年6月、奈良の東大寺にて、大規模なイベントが開催された。
このイベントは日本と世界のミュージシャンが共演し、
21世紀への音楽遺産を残していくという趣旨のもと開催されたコンサートだ。
出演アーティストは実に豪華で、
世界的にも名の通った顔ぶれが勢揃い。
その中に日本代表として、
エントリーされたのが渦中の人物――皮袋猫泰と、
YASHIKI率いる『HI-GROW』であった。
「そう、皮袋猫泰は、あの伝説のバンド「POOWY」の伝説的なギタリスト。
そんな御仁と同じイベントに参加出来るんだ。
と、オレ自身も結構興奮していたよ。
その時、在籍していたHIDETOも皮袋さんの大ファンだったが……。
そこであの事件――「YASHIKI 皮袋事件」が起きた」
だがここでYASHIKIは、このトーンを少し下げた。
そして少し物憂げな顔でゆっくりと言葉を紡ぐ。
「まあこの事件も結構有名だから、
中高年の人達はご存知でしょう。
でも今から思えば、オレに落ち度があった事は認めるよ。
皆でリハーサルを行うところで、
オレは余裕綽々の遅刻で登場。
それに皮袋……さんがキレたんだよ。
でもさ、オレもコンサート終了後の打ち上げの際に、
皮袋さんに挨拶はしたんだぜ。
そこで「HI-GROWって何だよ!」
って言われてね、もうぶち切れちゃいましたよ。
オレを侮辱する事は赦せ……ねえが、
HI-GROWを侮辱する事はもっと赦せない。
だから彼とはとことんやり合った。
だけど今ではそれも後悔しているよ」
YASHIKIはそう言って、遠くに視線を向けた。
「まあオレのこの行為は、言うまでも無く社会人として、
そして人間として失格、
だが反体制の心意気を源流に持ち、
常識や規律に縛られないことを是とするロックンローラーの姿勢としては、
むしろ正しいかもしれん。
というオレを擁護する声も定期的に目にするが、
正直に言えばこれは普通にオレが悪い。
でも当時はやはり若くて自分に自信がありすぎてさ。
それが悪い方向へ出たんだろうな。
やっぱり社会人として遅刻はNGだし、
それを注意されて逆ギレするのはもっと駄目。
だからこの場で謝らせてもらうぜ。
皮袋さん! あの時はマジ悪かったです!」
……。
しばらくの間、会場が静寂に包まれた。
するとYASHIKIが「ふう」と吐息を漏らす。
その表情はどこか満足げだ。
だがここで終わらない。
そしてYASHIKIは、最後の懺悔する。
「あまり長々と懺悔してもアレだしな。
だから次で最後にするよ。
そして最後の懺悔の内容は――「ノーモアYASHIKI事件」だぁっ!」
嗚呼、今度はそのネタか。
観客席の中高年が思わず内心で呟く。
するとYASHIKIが淡々と「ノーモアYASHIKI事件」のついて語り出す。
「この事件は今から十八年前の2008年に起きた。
オレがその時の大相撲の横綱と懇意していたので、
激励の意味を込めて、横綱の許へ向かったんだが、
その横綱に「記念撮影だけでもしてほしい」と懇願されたのさ。
それでスタッフに「混乱を避けるため別の場所にいてほしい」と言われ、
外の車の中で約三十分待機していたのさ」
ここで一呼吸を置くYASHIKI。
そして冷静に当時の状況を説明する。
「それで部屋に入ると入り口は、
関係者や取材陣でごった返していた。
その時、オレとスタッフに、
相撲部屋の世話人から「急げ」や「走れ」の声が飛んだのさ。
横綱の前でカメラを構える取材陣を避けて、
脇から向かったところで「靴を脱げ」とまた世話人に怒鳴られた。
でもその時は混雑しており、
足元なんか確認できる状況じゃなかったのさ。
オレは横綱に頼まれて、会いに行ったのこの扱いさ。
まあ相撲協会の人間は、オレの事をよく知らなかったみてえだが、
一応客人だろ? もうちょいマシな対応を出来ないか。
と当時でも思ったが、この頃はオレも大人になってたので、
「「僕はもともと呉服屋の長男。いくらアメリカ生活が長いとはいえ、
平気で畳の上を靴で歩いたりはしません」と模範解答で対応したのさ」
観客席の観客達も「そうだったのか」とか「成る程」。
また「あの時のYASHIKIの対応はマジ大人だった」とか、
ここに来てYASHIKIに対する印象が好転する。
一方のYASHIKIは、冷静に淡々と言葉を紡ぐ。
「まあオレ的にはよく我慢したいと思うぜ。
でもこの頃は既にデジタル時代。
ここでの対応を間違えれば炎上の可能性もあった。
だからオレは空気を読んで、細心の注意を払い、
完璧な模範解答を出した。
だが今から思えば、この時のオレは大人過ぎた。
そして今だからこそ、オレは本心をぶつけるぜ!」
するとYASHIKIは、左拳を強く握りしめて、
マイクに顔を近づけて、マシンガンのように早口で喋った。
「何が世話人だぁっ! 馬鹿野郎っ!!!
オレは横綱の客人として呼ばれたんだぞ!
というかどんな客相手でも礼儀を尽くすものだろっ!
そのくせ、国技やら何たらと格式ぶってるけど、
こういう所から治さねえと、組織も健全化しねえんだよっ!
オレはYASHIKIだぁっ! 勝負しろ、この野郎っ!!!」
観客席が完全に凍り付く。
やはりこの男のやる事についていけない。
いや少しは気持ちは分かるが、もう十八年前の事だろ。
でもある意味、この男らしい……。
というかこれは確実に懺悔じゃないよね。
と観客席の観客の多くが同じ感想を抱いた。
だがステージ上のYASHIKIは、
何処かふっきれたような笑顔を浮かべていた。
「とりあえず言いたい事は全て言ったよ。
まあでも世話人の下りは、ちょい余計だったよな。
だけどおかげでなんだか胸がスッキリしたよ。
とりあえずオレからは以上だ!」
そしてYASHIKIは何回も客に向かって礼をした。
「皆、オレの懺悔を聞いてくれて、
本当にありがとうございましたっ!!」
こうしてYASHIKIによる懺悔タイムは終わったが、
彼のこの行動は、瞬く間に表のメディアにもネット界隈にも広がり、
大炎上に加えて、一時的にネット上でトレンドワードとなった。
この件で「☆STAND UP SPEECH HERO☆」の話題性にも
火がついたが、YASHIKIがそこまで考えていたかは誰も分からなかった。
~おしまい~




