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全自動人生販売機  作者: はまゆう


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1/1

100円で買える運命と、買えない未来

 町角に、見慣れない販売機が設置された。

 灰色の金属製で、飲料の写真も商品名もない。ただ中央に赤いボタンが一つあり、その上に白い文字でこう書かれていた。


「人生、一本 100円」


 最初に押したのは、失業中の男だった。どうせ冗談だろう、と笑いながら硬貨を入れる。

 ガコン。出てきたのは飲み物ではなく、透明なカプセル。中には細長い紙切れが入っている。


「あなたは三年後、大成功します」


「占いか」


 男は鼻で笑い、紙を丸めて捨てた。


 だが三年後――彼は本当に成功した。偶然とは思えないほど都合よく仕事が舞い込み、気づけば大企業の社長になっていた。


 噂は爆発的に広まった。


 次に押した主婦は「理想の家族」を引き当て、ぎくしゃくしていた家庭が突然円満になった。学生は「天才的ひらめき」を手に入れ、難問を次々解いた。売れない作家は「世界的ベストセラー」を出し、本屋の棚を埋め尽くした。


 誰もが確信した。

 これは本物だ。


 販売機の前には長蛇の列ができた。夜中でも消えない。警備員が配置され、整理券が配られ、ついには転売屋まで現れた。


 政府は調査班を派遣した。分解しようとした技術者のドライバーは、機械に触れた瞬間、柔らかく曲がってしまった。切断機は刃こぼれし、透視装置には内部が「未定義」と表示された。


 ただ一つ分かったのは――

 補充に来る人物を、誰も見たことがないという事実だった。


 やがて社会は変わり始めた。


 努力して資格を取るより、「資格取得の人生」を買った方が早い。

 告白するより、「両想いになる人生」を買えばいい。

 研究するより、「大発見する人生」を押せばいい。


 学校は空席だらけになり、会社は出勤率が激減し、病院でさえ医者が列に並んだ。


 人々は口をそろえて言った。

「これは人類史上最大の発明だ」


 ある夕方、列の最後尾に並んでいた少年が、前にいた老人に話しかけた。


「ねえ、この機械って、誰が作ったの?」


 老人は少し考え、肩をすくめた。


「さあな。だが一つ言える。

 人間が作ったとは思えん」


「どうして?」


「人間はな、自分で頑張るのが好きな生き物だ。遠回りして、失敗して、それでもやる。

 こんな“近道しかない装置”を作ったら――退屈で死んじまう」


 少年は首をかしげた。

「でも、みんな嬉しそうだよ?」


「今はな」


 そのとき、販売機の表示が静かに切り替わった。


「新商品入荷

『努力して夢をかなえる人生』」


 列がざわついた。


「なんだそれ」

「当たり前じゃないか」

「買う意味あるのか?」


 誰もボタンを押さない。整理券番号が呼ばれても、人は前に出なかった。


 沈黙が数分続いたあと――


 少年が列を抜けた。


「買わないのか?」と老人。


「うん」少年は笑った。「それ、もう持ってる気がする」


 そう言って、販売機に背を向けて走り去った。

 しばらくして、列から一人、また一人と離れていく者が現れた。


 最後に残ったのは、赤いボタンを見つめる老人だけだった。


 彼はしばらく考え、ポケットから100円玉を取り出す。

 だが――入れずに戻した。


「やれやれ。どうやら、まだ人類は大丈夫らしい」


 販売機は何も言わず、ただ静かに次の客を待っていた。

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