牢屋帰還 戻る場所は、いつも騒がしい
鍵の音が、
いつもの調子で鳴った。
ガチャ。
「はいはい、
戻りましたよー」
アキトは、
軽い声で言いながら
牢屋に入った。
空気が、
変わらない。
それが、
なぜか安心する。
「……アキトさん」
エルミナが、
そこにいた。
少しだけ、
目が赤い。
「お、おう。
ただいま?」
アキトが
言い終わる前に
ぎゅっ。
「えっ」
エルミナが、
勢いよく
抱きついていた。
「……え?」
アキトは、
両手を
宙に浮かせる。
「ちょ、
ちょっと……」
周囲が、
静まり返る。
看守も、
立ち止まった。
「……あ」
エルミナが、
我に返る。
「……あっ」
離れる。
一歩下がる。
「…………」
「…………」
気まずさが、
天井まで満ちた。
「……す、
すみません!」
エルミナは、
顔を真っ赤にして
深く頭を下げた。
「その、
つい……」
「い、
いや、
俺も……」
アキトは、
何を言えばいいか
分からない。
そこへ。
「ふぉっふぉっふぉ」
ラーデンが、
実に楽しそうに
拍手した。
「いやあ、
青春じゃのう」
「ち、
違います!」
エルミナが、
即否定する。
声が、
裏返った。
「ほう?
抱きついておいて?」
「ち、
違います!」
ラーデンは、
顎を撫でる。
「坊主、
これは責任を
取らねばならんのう」
「何のだ!」
「まあまあ」
ラーデンは、
にやりと笑う。
「牢屋に戻った途端、
通常運転じゃ」
看守が、
小さく咳払いする。
「……報告書に
書きます?」
「やめてください!」
エルミナが、
即答した。
アキトは、
苦笑いして
頭をかいた。
「……帰ってきたな」
ラーデンは、
満足そうに頷く。
「うむ。
牢屋は、
こうでなくては」
牢屋に戻れば、気まずさも含めて、いつも通りだった。




