隊長の報告書地獄 文字は、嘘をつかない
執務室。
夜。
隊長は、
机に向かっていた。
目の前には、
一冊の分厚い報告書。
表紙には、
大きく書かれている。
《隔離対象:アキト
経過報告(暫定)》
「……」
隊長は、
何も言わずに
一ページ目を開いた。
《隔離初日》
・対象は指示通り行動
・問題行動なし
・室内設備に微細な亀裂を確認
「……微細?」
次のページ。
《隔離二日目》
・対象は座っていただけ
・会話なし
・机の角が欠ける
・原因不明
隊長は、
ペンを置いた。
「……原因不明、
多すぎだろ」
さらに次。
《隔離三日目(午前)》
・対象は深呼吸を実施
・天井から粉塵落下
・魔力反応:微量だが持続的
隊長は、
天井を見上げた。
何もない。
「……呼吸で、
天井が壊れる?」
報告書は、
まだ続く。
《隔離三日目(午後)》
・対象は“何もしていない”と主張
・書類が浮遊後、落下
・対象、謝罪
「謝るな」
最後のページ。
《総括》
・対象は命令遵守
・危険意識あり
・隔離効果:不明
・隔離室の寿命:短縮
隊長は、
深く息を吸った。
そして、
机に額を打ち付ける。
ゴン。
「……」
「隔離とは」
誰もいない部屋で、
静かに呟く。
「安全を
確保するための
措置ではなかったか……」
ドアが、
ノックされた。
「隊長、
追加報告です!」
「……聞こう」
声が、
疲れている。
「隔離室の壁、
補強しましたが……
なぜか
椅子が軋み始めました」
「……本人は?」
「座ってます」
「……座らせるな」
報告書の山が、
机に積まれる。
隊長は、
それを見て
小さく笑った。
乾いた笑い。
「……もういい」
ペンを、
取り直す。
新しい紙。
タイトルを書く。
《今後の対応案》
・隔離の再定義
・隔離場所の検討
・本人の“何もしない”を
何かとして扱う
隊長は、
椅子にもたれた。
「……牢屋の方が
平和だったな」
報告書が分厚くなるほど、現場は平和ではなかった。




