隔離先アキト側 静かにしていると、だいたい壊れる
隔離室は、
静かだった。
静かすぎる。
アキトは、
椅子に座ったまま
天井を見ていた。
「……静かだな」
言った瞬間、
天井の石が
小さくパキ、と鳴った。
「言ってない。
今のは俺じゃない」
隔離中は、
“極力動くな”
“触るな”
“考えるな”
という指示が出ている。
三つ目が一番無理だ。
「……なあ」
独り言。
返事は、
ない。
なのに。
「……いや、
呼んでない」
壁の向こうで、
何かが
きしっと鳴った。
アキトは、
深呼吸する。
落ち着け。
今日は、
静かに過ごす日だ。
椅子の脚が、
ミシ、と鳴る。
「耐えろ」
床が、
パキ。
「耐えろって」
ついに。
天井から、
白い粉が
ぱらぱら落ちてきた。
「……ごめん」
誰に謝っているか、
自分でも分からない。
壁の向こう。
ラーデンの声が
微かに聞こえる。
「坊主、
今、
息してるか?」
「普通にしてます」
「それが一番危ない」
アキトは、
膝の上で
手を組む。
動かない。
考えない。
コト。
机の端が、
欠けた。
「……俺、
何もしてない」
書類の束が、
ふわっと
浮いた。
「やめろ」
次の瞬間、
紙が一斉に落ちた。
沈黙。
アキトは、
ゆっくり顔を上げる。
「……静かにしてると、
壊れるんだな」
壁の向こうで、
ラーデンが
感心したように言った。
「ほう。
新しい発見じゃな」
「発見したくなかった」
扉の外で、
誰かが
慌てて走る音。
「報告ー!
隔離室、
何もしてないのに
壊れ始めてます!」
アキトは、
天井を見上げて、
小さくため息をついた。
「……俺、
無職でいいですか」
静かにしているだけで事件になる男は、隔離されても隔離できない。




