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全裸で異世界落ちした俺の、今日も誤解される街暮らし 〜魔法少女見習いと亡霊パンツと牢屋生活〜  作者: 月影ポンコツ


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待つ時間(2度目) 慣れたはずなのに、静かすぎる

エルミナは、

牢屋の前に立っていた。


もう、

扉は開かない。


分かっている。


二度目だから。



「……今日も、

 静かですね」


誰に言うでもなく、

そう呟いた。


返事は、

ない。


それなのに、

つい耳を澄ましてしまう。


いつもなら

鎖の音。

ため息。

ぼそっとした独り言。


それが、

ない。



「慣れたはず

 なんですけど」


エルミナは、

自分に言い聞かせる。


一度目は、

混乱して、

何も考えられなかった。


二度目は、

ちゃんと仕事もできている。


巡回も、

報告も、

手順通り。


……完璧だ。



「だから、

 大丈夫です」


そう言って、

うなずく。


なのに。


歩き出すと、

足音が一つ足りない気がした。



昼。


食堂の片隅。


いつもなら、

アキトさんが

文句を言う時間。


「塩多すぎません?」

とか。

「これ朝の残りですよね?」

とか。


今日は、

誰も言わない。


エルミナは、

スープを一口飲んで

むせた。


「……っ」


味は、

いつも通り。


なのに、

喉に引っかかる。



「……おかしいな」


何が、

おかしいんだろう。


分からないまま、

食器を置く。



午後。


装備点検。


魔導具の棚を拭きながら、

エルミナは考える。


(今頃、

 ちゃんとご飯

 食べてますかね)


(また、

 変な検査

 受けてませんよね)


考えないつもりでも、

勝手に浮かぶ。



「……あ」


ふと、

手が止まった。


拭き終わった棚の端。


小さな、

ひび。


前に、

アキトさんが

検査で触って

割れかけたやつ。


修理報告は、

もう出してある。


それでも。


そこだけ、

目が離れなかった。



「……」


胸の奥が、

じわっと痛む。


「二度目なのに」


小さく、

呟く。


「全然、

 慣れません」



夕方。


巡回の途中、

牢屋の前を通る。


反射的に、

声を出しかけて

止めた。


「……」


誰も、

いない。



エルミナは、

深呼吸する。


(私は、

 看守)


(感情は、

 仕事の邪魔)


何度も、

言い聞かせた言葉。



夜。


静かすぎる。


見回りの足音が、

壁に跳ね返るだけ。


その音が、

やけに大きい。



「……早く、

 帰ってきてくださいよ」


声は、

小さかった。


命令でも、

願いでもない。


ただの、

本音。



エルミナは、

灯りを落とす。


闇の中。


空いた場所が、

まだそこにある。


二度目の待つ時間は、

一度目より、

ずっと長かった。


二度目の不在は、慣れるどころか、静かに心を削っていった。

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