エルミナの自主練が壊滅的な件について
牢屋の藁ベッドで目を覚ました俺は、
開口一番、隣の牢から聞こえた轟音に悲鳴を上げた。
ドォオオン!!
「何が爆発したぁぁぁ!!?」
「あっ、アキトさん起きました!? 自主練してました!」
「お前の“自主練”ってなんで毎回爆発するんだよ!!?」
鉄格子の向こうで、エルミナが両手をバチバチ光らせて笑っている。
「今日は“安全・安心・絶対に失敗しない魔法の練習”なんです!」
「その三点セットだけは絶対に信用しないと決めてるんだが」
「失礼な! ほら、見ててください!」
「やめろって言ったらやめる流れになってくれぇぇ!!」
だが彼女は嬉々として詠唱を始めた。
「まずは基礎の“浮遊魔法”です!」
「そんな危険じゃなさそうな……」
ふわあっと、エルミナの手元に青い光が集まる。
「《ふんわりうきうきエアリーリフト》!」
「技名が不安なんだよ!!」
ぱしゅん、と柔らかい光が弾けた。
次の瞬間
俺の身体だけが天井に吸い込まれるように急上昇。
「なんで俺が浮くんだよおおお!!?」
「成功です!!」
「成功じゃねぇぇぇ!?」
ゴン! と天井に頭を打ちつけて、また落ちる。
バインッ!
「うわっ!? また浮いた!?」
「アキトさん、二段ジャンプできてます!」
「魔法のバグみたいに言うな!!」
まるで弾むスーパーボールのように、俺は天井と床を往復。
看守が慌てて駆け込んできた。
「また君たちか!! 今日こそ牢屋を壊さないでくれ!」
「壊してるのは俺じゃない!! エルミナだ!!」
「責任者は君だよ」
「なんでだぁぁぁ!!?」
なんとか魔法を解除させ、俺は地面に倒れ込んだ。
「うう……頭が割れる……」
「じゃあ次は“治療魔法”で治しますね!」
「待て待て待て待て! 一回考える時間をくれ!」
「大丈夫です! 今度こそ安全なやつです!」
「その言葉が一番危険なんだよ!」
だが、止める間もなくエルミナは詠唱を始めた。
「《やさしさ120%ヒールタッチ》!」
「名前からして嫌な予感しかしないぃぃ!!」
ぴかーっと光が広がり、
俺の頭に触れた瞬間
バチバチバチィィ!!
「ぎゃああああああッ!? 静電気!? 治療っていうか拷問!!」
「おかしいですね……癒やしを込めたつもりなんですが……」
「気持ちが空回りしまくってんだよ!!」
看守がまた来た。
「この牢屋だけ、なんで毎日雷鳴がしてるんだ……?」
「彼女のせいです!!」
「責任者は君だよ」
「なんでだぁぁぁぁ!!」
その後もエルミナの自主練は続いた。
“優しい風魔法” → 看守のカツラが飛ぶ
“安全な火魔法” → 朝食のパンが黒焦げ
“控えめな防御魔法” → 牢屋だけ揺れる
昼すぎ、ついに街から苦情が殺到し
「エルミナ、今日で訓練は終了だ!!」
「はい! じゃあ明日またやりますね!」
「終わってねぇぇぇ!!」
エルミナは笑って手を振る。
「アキトさん、今日の成果すごかったですね!」
「俺の体力ゲージが瀕死になっただけだわ!!」
「明日はもっと強くなりましょう!」
「だから続ける気満々かよぉぉ!!」
今日も異世界は、とんでもなくうるさい。




