一時保留の夜 、静かなまま、眠れない
牢屋の夜は、
いつも静かだ。
それでも今日は、
音が多かった。
水滴が、
ぽたりと落ちる音。
遠くの見回りの足音。
鉄格子が、
冷える気配。
誰も、
喋らない。
アキトは、
壁にもたれて座っていた。
考えているのか、
考えないようにしているのか、
分からない顔。
エルミナは、
膝を抱えている。
帳面は、
開かれないまま。
ラーデンは、
目を閉じている。
寝ているのか、
起きているのか、
分からない。
「……」
何度か、
声を出そうとして、
やめた。
言葉にした瞬間、
何かが決まってしまいそうで。
パンツの囁きも、
今夜はない。
それが、
一番怖かった。
(ああ……)
(本当に、
静かだ)
エルミナは、
天井を見上げる。
石の隙間。
そこに、
答えがあるわけじゃない。
(明日)
(明日になったら)
何かが、
変わる。
それだけが、
確かだった。
ラーデンが、
小さく言った。
「夜はな」
誰に向けたでもなく。
「答えを
出す時間じゃない」
アキトは、
小さくうなずいた。
見回りの足音が、
遠ざかる。
牢屋は、
また静かになる。
眠れないまま、
夜は続く。
今日も牢屋は……答えを持たない夜を、そのまま抱えていた。




