隔離提案 それでも、決めなければならない
朝。
牢屋の扉が開く音は、
いつもと同じだった。
なのに。
空気だけが、
違った。
隊長が立っている。
書類は持っていない。
それだけで、
アキトは察した。
「……仕事ですか」
「いや」
隊長は、
短く首を振る。
「提案だ」
エルミナ
「提案?」
明るく聞き返して、
すぐに黙った。
隊長の目が、
笑っていなかった。
ラーデン
「ほう……
やっと来たか」
「黙っていろ」
珍しく、
きつい声だった。
隊長
「魔道具保管所での検査結果は
正式に上がった」
アキト
「……はい」
「結論は、
すでに知っているな」
「近づくな、
ですよね」
「違う」
一拍。
「近づけさせるなだ」
エルミナ
「……!」
隊長
「街中では、
もう限界だ」
「牢屋も、
限界だ」
視線が、
石壁をなぞる。
「防音も、
隔離も、
対症療法だった」
ラーデン
「今さら賢くなるな」
「今だからだ」
隊長は、
はっきり言った。
「専用区画での隔離を提案する」
静寂。
エルミナ
「……それって」
声が、
少し震える。
「一人、
ですよね」
隊長は、
答えなかった。
答えが、
肯定だからだ。
アキト
「理由は
分かります」
全員が、
彼を見る。
「俺、
危ないんでしょ」
「……」
「壊すつもりなくても、
壊れる」
「誰かが怪我したら、
冗談じゃ済まない」
エルミナ
「アキトさん……」
「だから」
アキトは、
肩をすくめた。
「合理的だと思います」
隊長の拳が、
わずかに震えた。
「……条件がある」
「何です?」
「同行は認めない」
エルミナ
「――っ!」
一歩、
前に出る。
「それは
違います!」
隊長
「エルミナ」
「私、
担当です!」
「見習いだ」
「それでも!」
声が、
裏返る。
「一人にする必要、
ありますか!?」
隊長は、
ゆっくり言った。
「ある」
「……どうして」
「お前が壊れる」
言い切った。
エルミナは、
言葉を失った。
ラーデン
「坊主」
アキト
「はい」
「牢屋はな、
居場所じゃ」
「……」
「だが、
居場所に甘えると
死ぬこともある」
アキト
「……ですね」
隊長
「決定ではない」
「提案だ」
「だが」
目を伏せる。
「先延ばしはできない」
しばらく、
誰も話さなかった。
エルミナは、
唇を噛みしめている。
アキトは、
床を見ている。
ラーデンは、
目を閉じている。
アキト
「……少し」
顔を上げる。
「考える時間、
もらえますか」
隊長
「ああ」
一歩、
下がる。
「それが
最後だ」
扉が、
閉まる。
牢屋に、
静けさが落ちた。
エルミナ
「……嫌です」
小さく。
「私は……
嫌です」
アキトは、
答えなかった。
今日も牢屋は……初めて“守れない場所”になった。




