魔道具保管所・地獄の検査
魔道具保管所、第二区画。
重たい扉が閉まると、
空気が、
一段冷えた。
係員
「では……検査を始めます」
アキト
「嫌な言い方」
最初は、
距離測定だった。
白線が、
床に引かれる。
「ここから
一歩ずつ、前へ」
アキト
「近づく必要あります?」
「規定です」
一歩。
魔力計、
小さく鳴る。
二歩。
魔道具が、
震える。
三歩。
パキン。
端の棚の、
護符が割れた。
係員
「……まだ触れていませんよね?」
アキト
「存在してます」
次。
結界布。
係員
「魔力遮断性能、
最高等級です」
「信用していい?」
「はい」
布を、
アキトの前に垂らす。
……静か。
全員、
息を止める。
数秒後。
ビリッ。
布が、
自分から裂けた。
エルミナ
「えっ!?」
アキト
「布が負けに行った」
隊長
「……記録」
次。
指輪。
「魔力増幅型です。
通常は反応しません」
机に置いた瞬間。
カン、と音を立て、
指輪が転がった。
自分から、
遠ざかるように。
ラーデン
「嫌われとるな」
アキト
「初対面でこれはつらい」
最後。
魔力安定水晶。
部屋の中央に、
厳重に固定されている。
係員
「これは……
街でも最大級です」
隊長
「慎重に」
アキト
「じゃあ俺、
外で」
「その位置で止まれ」
距離、
七歩。
静寂。
五歩。
……まだ、
耐えている。
三歩。
キィ……。
水晶が、
悲鳴みたいな音を立てる。
二歩。
バンッ!
水晶の表面に、
ひび。
一歩。
隊長
「止まれ!」
止まった。
……壊れなかった。
全員、
同時に息を吐く。
係員
「……ギリギリです」
隊長
「記録しろ」
「はい」
検査終了。
係員は、
紙を見つめた。
「結論です」
誰も、
口を挟まない。
「当該人物は」
一拍。
「魔道具の近接運用不可」
アキト
「働けませんね」
隊長
「……ああ」
エルミナ
「でも!
壊さずに止まりました!」
アキト
「褒めどころがズレてる」
ラーデン
「進歩じゃ」
帰り際。
係員が、
小声で言う。
「……生き物は?」
隊長
「……問題ない」
アキト
「問題ありますよ」
誰も、
笑わなかった。
今日も牢屋は……壊さずに済んだ日を祝う場所だった。




