新しい変な仕事
朝。
牢屋の鍵が、
いつもより雑な音で開いた。
「アキト」
隊長だった。
目の下に、
昨日の報告書の影が残っている。
「……今日は何ですか」
「仕事だ」
「働いてない設定どこ行きました?」
「公式には」
隊長は一瞬、
目を逸らした。
「観察同行だ」
嫌な予感しかしない。
エルミナ
「お仕事ですか!?
やったですね、アキトさん!」
アキト
「そのテンションで
何回街を壊した」
ラーデン
「若いの、
働くと牢屋が恋しくなるぞ」
「それもう今です」
隊長は書類を一枚出す。
【業務内容】
当該人物を
魔道具保管所へ同行させ、
影響範囲を確認する。
【備考】
※破壊厳禁
「無理だろ」
即答だった。
隊長
「だからだ」
「理由になってない」
魔道具保管所。
扉を開けた瞬間、
空気が、
きしんだ。
魔力計が、
一斉に鳴く。
「……入ってないのに」
エルミナ
「え、今の
アキトさん何もしてませんよね?」
アキト
「存在罪です」
棚。
剣。
指輪。
水晶。
どれも、
小刻みに震えている。
係員
「……報告通りだ」
隊長
「触るな」
「触ってません」
言い終わる前に。
パキン。
魔力検知棒が、
真っ二つ。
係員
「……触ってませんよね?」
アキト
「魂が触れた」
エルミナ、
メモを取る。
「えっと……
半径五歩以内で
魔道具が怯える、と」
隊長
「書くな」
ラーデン
「儂なら
箱に入れるな」
「それ隔離です」
一通り終わって。
係員
「結論として」
全員、
息を飲む。
「使えません」
隊長、
うなずく。
「だろうな」
アキト
「仕事失敗ですか?」
「成功だ」
「どこが」
隊長
「被害が
最小だった」
全員、
黙った。
帰り道。
エルミナ
「でも、
お仕事できましたね!」
アキト
「何一つ
達成感がない」
ラーデン
「仕事とは、
そういうものじゃ」
牢屋。
鍵が閉まる。
「仮出所、
終了だ」
隊長は、
少しだけ声を落とす。
「……次は
もっと安全な仕事を考える」
アキト
「それ
本当に存在します?」
隊長
「……努力する」
今日も牢屋は……仕事を終えた者だけが帰ってくる場所だった。




