隊長の報告書地獄
深夜。
執務室の灯りが、
一つだけ残っていた。
ガルド隊長は、
机に向かっていた。
紙。
紙。
紙。
「……多すぎる」
報告書の山が、
小さく崩れた。
【件名:騒音事案に関する経過報告】
【件名:魔力観測用倉庫損傷報告】
【件名:仮隔離措置の妥当性について】
【件名:呪い残響(仮称)に関する所見】
「……呪い“残響”?」
誰が書いた。
「……俺か」
頭を抱える。
「一からだな……」
一枚目。
【概要】
当該人物は
手が止まる。
「……どう書けと」
・悪意なし
・常時魔力漏出
・魔道具破壊
・パンツ由来の囁き声(夜間限定)
「公式文書に
“パンツ”は書けん……」
消して、
書き直す。
【異常装備由来の精神的影響】
「……違うな」
また消す。
【原因不明の魔力的残滓】
「これだ」
隊長は、
静かに頷いた。
二枚目。
【被害状況】
・防音板:全損
・結界布:破裂
・魔力計:故障
・床:弾力増幅
「……床?」
誰だ書いた。
「……俺か」
ため息。
三枚目。
【仮隔離の結果】
「……結果」
ペンが止まる。
・安全性:未改善
・騒音:増大
・管理難易度:上昇
「隔離、
失敗だな……」
しかし、
最後に一文を足す。
【備考】
当該人物は、
一人で隔離すべきではない。
書いてから、
少し考える。
「……理由」
少しだけ、
言葉を選ぶ。
【精神的安定に
同伴者が有効と判断】
「……甘いな」
それでも、
消さなかった。
夜更け。
扉が、
静かに開く。
「……まだですか」
領主の声。
隊長は、
背筋を伸ばす。
「はい」
「進捗は?」
「……地獄です」
正直に言った。
領主は、
一瞬黙ってから、
笑った。
「だろうな」
机の上を見渡す。
「彼は、
どうだ?」
隊長は、
少し考えた。
「……問題児です」
「だが?」
「……放っておけません」
領主は、
目を細めた。
「君らしい」
立ち去り際、
一言だけ残す。
「書け。
守りたいなら、
なおさらな」
夜明け。
最後の一文。
【総括】
当該人物は、
危険である。
だが
ペンが、
一瞬止まる。
【同時に、
守る価値がある】
隊長は、
深く息を吐いた。
「……終わった」
机に、
顔を伏せる。
その頃。
牢屋。
エルミナ
「今日も平和ですね!」
アキト
「嵐の前だろ」
ラーデン
「隊長が泣いとる頃じゃ」
今日も牢屋は……平和で、その分だけ隊長の紙が泣いた。




