仮隔離解除 牢屋帰還
夕暮れ。
魔力観測用倉庫の前で、
ガルド隊長は一枚の紙を折った。
「……仮隔離を解除する」
アキト
「え」
エルミナ
「やったぁ!」
「条件付きだ」
すぐ続く。
「夜間の騒音は管理下に置く。
魔道具の使用は禁止」
アキト
「いつも通りですね」
「そうだ」
隊長は、
それが“いつも通り”だと
理解している。
「戻るぞ」
牢屋。
扉が開いた瞬間、
懐かしい空気が流れ込んだ。
「……帰ってきました」
アキトが言う。
エルミナ
「おかえりなさい!」
声が大きい。
「静かにしろ」
「はい!」
ラーデン
「静かにできた例がないのう」
アキトは、
壁にもたれた。
「……ここ、
やっぱ落ち着きますね」
「うるさいですけどね!」
「うるさいからな」
三人の声が、
重なる。
隊長は、
少しだけ離れた場所で
それを見ていた。
「……不思議だな」
看守
「何がです?」
「外より、
中のほうが
平和に見える」
看守
「問題児しかいませんけど」
「だからだ」
隊長は、
背を向けた。
「ここにいる方が、
被害が少ない」
夜。
エルミナは、
床に座り込んだ。
「……安心しました」
「俺も」
アキトは、
天井を見る。
「……戻れないかもって、
思ってました」
エルミナ
「戻ります!」
即答。
「アキトさんは、
ここにいます!」
「決めるのは俺だ」
通路から、
隊長の声。
「だが」
一拍。
「今は、ここがいい」
アキトは、
小さく笑った。
「……ありがとうございます」
「礼はいらん」
「管理だ」
いつもの言葉。
でも、
その声は
どこか柔らかかった。
そのとき。
『お帰りなさい、ご主人』
囁き。
アキト
「……」
エルミナ
「今の、
誰ですか?」
「……気のせいです」
ラーデン
「気のせいにしておくのが、
長生きの秘訣じゃ」
牢屋は、
いつもの騒音に包まれた。
安心できる、
うるささだった。
今日も牢屋は……帰るとうるさくて、やっぱり落ち着く。




