巨大鐘楼パニック! “修復魔法の後遺症”が街を襲う
朝。
俺はいつもの牢屋で、藁ベッドに沈み込みながら天井を見上げた。
「……世界がピカピカなままなんだよな……」
床はツルツル。
街の入口までツルツル。
森の動物たちが滑って転げ落ちてくるほどツルツル。
「そして鐘楼のあのデカさ……絶対なんか起きるだろ……」
「アキトさん、おはようございます!」
「ほら来たァァァ!!」
鉄格子の外に、今日も光のような笑顔のエルミナが立っていた。
「昨日の修復魔法、完璧でしたね!! あの鐘楼、想像以上に立派に!」
「“立派”ってレベルじゃないから……建造物としてアウトだよあれ」
「でも、街の皆さんが『観光名所にしよう』って言ってました!」
「また俺が捕まる流れじゃん!!?」
しかし、返事をする間もなく、衛兵があっさり言った。
「アキトくん、仮釈放ね。鐘楼の“後遺症”が出てるから来て」
「後遺症!? 建物に後遺症!? もう嫌すぎる!!」
街の中心へ向かうと……
そこには、昨日エルミナが勝手に三倍増築した巨大鐘楼がそびえ立っていた。
「デカァァァ……」
空を覆うような巨大さ。
もはや塔というより神の柱。
だが……違和感がある。
「なぁエルミナ……あれ……揺れてね?」
「はいっ! 活性化してるんです!」
「無邪気に言うな!!?」
巨大鐘楼が、ぐわん……ぐわん……と微妙に動いている。
そして
ゴォォォォォォォッ!!
「鐘が鳴り出したァァァ!?!?!?」
まだ誰も触ってないのに、塔の中心部から大鐘が勝手に鳴り響いた。
街人たちが慌てて飛び出す。
「やばい! また鳴り出した!」
「魔力で勝手に動いてるんだって!」
「誰のせいだよ!?」「パンツ男のせいらしい」
「違ううううううう!!!!!」
鐘楼の中を確認するため、俺とエルミナは塔の内部へ。
中は異常に綺麗で……やっぱりツルツルだ。
「滑るんだけど……!?」
「オートクリーニングの効果が残ってますからね!」
「残り方が強すぎる!! 永久磨きでもしたのかよ!!」
階段を登っていくと……
ドォンッ!
揺れた。
「な、なに今の!?」
「鐘楼が魔力を吸っている音です!」
「吸ってる!? 何を!? 誰の!? どこの!!?」
「この街の“魔力全部”です!」
「説明が軽いのおおおお!!?」
すると、塔の頂上からドッカーン! と爆音。
「うわあ!? 動いた!!」
巨大鐘が、勝手にぶんぶん揺れながら発光し始める。
「アキトさん、魔力が溜まりすぎて自己拡張が始まってます!」
「塔に意思あるみたいに言うな!!?」
光が塔全体に走る。
街人たちは逃げる。
「また鐘楼が大きくなるぞ!!?」
「パンツ男が呪いを撒いてるんだ!」
「違う! 違うからぁぁぁ!!」
「止める方法は!? ねぇエルミナ!!」
「あります!!」
「マジで!? 早く!!」
「《同調解除》という魔法を使えば……暴走は止まります!」
「よし使え!! 今すぐ!!」
エルミナは胸に手を当て、静かに目を閉じた。
「これは……“絶対に失敗したらいけない魔法”なんです……」
「フラグやめろ!!?」
「じゃあいきます……! 《同調解除》」
その瞬間、
バリィィィィィィィィン!!!
「うわあああああ!?!?!?」
鐘楼の中で魔力が逆流し、塔全体が光の柱になって吹き上がった。
「ねぇ!? 今の大失敗音じゃない!!?」
「えへへ……ちょっとだけ調整が……」
「ちょっと!? これ世界規模の“ちょっと”だろ!!?」
光が塔のてっぺんから噴き出し
鐘楼が……また少し伸びた。
「伸びてるうううう!!?」
「4倍です!! 記録更新です!!」
「記録更新目指すなぁぁぁぁ!!!」
街人たち、パニック。
「もう住めないぞこんな街!!」
「でっかい塔、また育った!!」
「原因は……パンツ男……!」
「なんで俺になるうううう!!?」
そしていつものように衛兵に取り押さえられた。
「今日も……街を騒がせたね、アキトくん」
「違う!! エルミナが!! あいつが!!」
「記録上は君だよ」
「その記録燃やしたいぃぃ!!」
牢屋に戻ると、なぜかエルミナがご機嫌だった。
「アキトさん、今日もすごかったですね!」
「褒め方が狂ってるよ!!?」
「明日は“もっと安全な修復魔法”持ってきますね!」
「安全が信用できないの!! ほんとお願いだから!!」
巨大鐘楼は今日も揺れている。
街はパニック。
草原はツルツル。
動物はスケート。
俺は牢屋。
そして今日も異世界は平和(?)である。




