隔離先での地獄同行
隊長とアキト
隔離先、と言われた場所は
倉庫だった。
「……ここですか?」
アキトは、
薄暗い建物を見上げた。
「正式には
魔力観測用保管倉庫だ」
ガルド隊長は、
淡々と言う。
「誰も来ない。
魔道具も少ない」
アキト
「俺にとっては、
最悪な条件しかないんですけど」
「理想的だ」
扉が閉まる。
ギィ……
「……隊長」
「なんだ」
「ここ、
なんか音、反響しません?」
「気のせいだ」
カン
アキトが一歩動く。
音が、
二歩分返ってきた。
「……気のせいじゃないです」
隊長は、
腕を組んだ。
「まずは、
何もしないで過ごす」
「無理です」
「やってみろ」
十分後。
「……」
「……」
静寂。
……のはずだった。
ポン
天井から、
小さな音。
ポン、ポン
「隊長、
雨ですか?」
「……違う」
音が、
増えていく。
ポン、ポン、ポン、ポン
隊長
「……心拍音か」
アキト
「え」
「お前の」
「聞こえなくていい情報!」
倉庫が、
鼓動する。
ドン、ドン、ドン
隊長
「……記録対象だな」
「記録しないでください!」
次。
食事。
「これを食え」
隊長が渡したのは、
無音食と書かれた乾パン。
「……噛む音、
消えます?」
「理論上はな」
バキッ
乾パンが砕ける。
その音が
三倍で返る。
バキバキバキ!
隊長
「……失敗だ」
「失敗じゃ済まない!」
夜。
「……寝ろ」
「無理です」
床に横になると、
軋む音が増幅。
寝返り。
ギギギギ……
「……隊長」
「なんだ」
「ここ、
俺が寝ると
街よりうるさくないですか」
「……否定できん」
そのとき。
『静かですね、ご主人』
囁き。
アキト
「出た!!」
隊長
「……今のは」
「聞こえました?」
沈黙。
隊長は、
ゆっくり頷いた。
「……ああ」
「初めて聞いた」
二人の間に、
言葉が落ちた。
「……幻聴じゃ、
なかったんですね」
「記録対象だ」
「そこは否定してください!」
深夜。
倉庫の魔力計が、
震え始める。
「……上がってる」
隊長が、
初めて声を低くした。
「アキト」
「はい」
「……一人にしなくて、
正解だった」
アキトは、
少しだけ笑った。
「……すみません」
「謝るな」
「管理だ」
同じ言葉。
今度は、
少しだけ柔らかかった。
翌朝。
隊長は、
倉庫を見回した。
壁のヒビ。
壊れた魔力計。
「……隔離場所、
再検討だな」
アキト
「ですよね」
「だが」
隊長は、
アキトを見る。
「お前は、
ここに一人で
置けない」
アキトは、
何も言わなかった。
それが、
答えだった。
今日も牢屋は……遠ざけたはずなのに、地獄は同行した。




