残された牢屋
牢屋が、
静かだった。
エルミナは、
その静かさが苦手だった。
「……静かですね」
言ってしまってから、
はっとする。
いつもなら、
この一言に返事があった。
「お前が原因だろ」とか、
「今は静かでいいんだよ」とか。
でも今日は
返ってこない。
「……」
エルミナは、
牢屋の中を見回した。
アキトさんが座っていた場所。
壁にもたれて、
よくため息をついていた場所。
今は、空いている。
「……隊長、
正しいですよね」
誰にともなく、
小さく言う。
アキトさんは、
危ない。
うるさいし、
トラブルを呼ぶし、
魔道具は壊すし。
でも。
「……悪い人じゃ、
ないです」
ラーデン
「それは、
全員知っとる」
背後から、
落ち着いた声。
エルミナは、
少しだけ肩をすくめた。
「……私、
うるさすぎましたよね」
「今さらじゃ」
「反省してます」
「……珍しいの」
エルミナは、
床に座り込んだ。
「私、
“見習い”ですけど」
ラーデン
「ほう」
「守る側なのに……
守られてた気がします」
アキトさんは、
いつも前に立っていた。
謝って、
怒られて、
それでも逃げなかった。
「……隔離って、
嫌な言葉です」
ラーデン
「言葉は、
だいたい嫌なもんじゃ」
エルミナは、
指先をぎゅっと握る。
「……戻ってきますよね」
「戻るさ」
即答だった。
「うるさいからな」
少し笑って、
ラーデンは続ける。
「それにの」
「本当に危ない者は、
一人にせん」
エルミナは、
その言葉を噛みしめた。
「……私、
ここで待ちます」
ラーデン
「待つのも、
仕事じゃ」
「はい!」
少し、
声が大きくなる。
「……あ」
慌てて口を押さえる。
「……静かにします」
ラーデン
「無理せんでええ」
エルミナは、
小さく笑った。
牢屋は、
まだ静かだった。
でも。
その静かさの中に、
確かに“続き”がある気がした。
今日の牢屋は……静かで、エルミナだけがうるさかった。




