隊長の隔離提案
守るための距離
騒音が収まり、
牢屋にいつもの空気が戻った頃。
ガルド隊長は、
黙ったまま立っていた。
紙を一枚、
ゆっくり折る。
「……アキト」
珍しく、
名前で呼ばれた。
アキト
「はい」
軽口を叩く癖が、
出てこない。
「防音は失敗。
改善案も失敗」
エルミナ
「……はい」
ラーデン
「見事な失敗じゃな」
隊長は、
それを否定しなかった。
「このままでは、
街に被害が出る」
空気が、
少しだけ重くなる。
「そこで提案だ」
隊長は、
視線を牢屋の奥ではなく、
外へ向けた。
「アキトを
一時的に隔離する」
沈黙。
エルミナ
「……え?」
アキト
「……隔離?」
ラーデン
「ほう」
「罰ではない」
隊長は、
即座に続けた。
「守るためだ。
街も、
お前も」
アキトは、
少し笑った。
「……ですよね」
軽く、
冗談みたいに。
「俺、
うるさいですもんね」
「違う」
隊長の声が、
低くなる。
「危ないんだ」
その言葉に、
エルミナが一歩踏み出した。
「隊長!
アキトさんは」
「分かっている」
被せるように言う。
「逃げない。
責任感がある。
悪意もない」
一呼吸。
「だからこそだ」
エルミナの手が、
震えた。
「でも……
一人にするんですか?」
隊長は、
一瞬だけ目を伏せる。
「……一人にはしない」
ラーデンを見る。
「同行者を付ける」
ラーデン
「ほう?」
「……俺だ」
全員が、
固まった。
アキト
「え?」
エルミナ
「隊長が!?」
ラーデン
「それはそれで騒がしくならんか?」
隊長は、
小さく息を吐いた。
「俺が見る」
それだけ。
牢屋に、
音が戻った。
アキト
「……すみません」
自然に、
口から出た。
隊長は、
それを遮る。
「謝るな」
「管理だ」
言い切りだった。
エルミナ
「……戻ってきますよね?」
隊長は、
エルミナを見る。
真っ直ぐに。
「状況が分かれば、
必ず」
ラーデン
「分からんかったら?」
「……その時は」
言葉が、
少しだけ詰まる。
「考える」
アキトは、
深く息を吸った。
「……俺、
ちゃんと静かにします」
ラーデン
「それが一番信用ならん」
エルミナ
「私も行きます!」
「却下」
即答。
「お前は、
ここを守れ」
エルミナは、
唇を噛んだ。
「……はい」
隊長は、
最後にアキトを見る。
「準備しろ」
「……はい」
扉が、
静かに閉まった。
エルミナは、
しばらくその場に立っていた。
ラーデン
「心配か?」
「……はい」
「じゃがの」
ラーデンは、
笑った。
「隔離とは、
遠ざけることじゃ」
「守ろうとする距離でもある」
エルミナは、
少しだけ顔を上げた。
「……戻ってきますよね」
ラーデン
「戻るさ」
「うるさいからな」
今日も牢屋は……守るために、一人分だけ静かになった。




