防音改修回
静寂は、壊れる音から始まる
「……以上だ」
ガルド隊長は、
重たい紙束を机に置いた。
「夜間騒音、怪談、反省会、
原因不明の囁き声」
アキト
「全部俺のせいみたいな並びやめてもらえます?」
「事実だ」
即答だった。
「そこでだ。
牢屋の防音改修を行う」
エルミナ
「わぁ!ついに静かな牢屋ですね!」
ラーデン
「静寂とは、
人を狂わせるものじゃがの」
「縁起でもないこと言わないでください」
隊長の合図で、
作業員が運び込んできたのは
・魔導防音板
・吸音結界布
・共鳴遮断の魔石
アキト
「全部、魔道具じゃないですか」
「安心しろ。
触らせなければいい」
ラーデン
「その発想がもう甘い」
最初の一枚目。
作業員が防音板を壁に立てかけた瞬間
ピシッ
「……?」
板の表面に、
細かなヒビが走った。
アキト
「俺、まだ触ってません」
「……記録しろ」
二枚目。
結界布が張られる。
静かになる。
「おお……」
エルミナ
「すごい!
本当に音が吸われてます!」
ぼふん
布が、
妙に膨らんだ。
ラーデン
「……溜まっとるな」
「何が」
ドン!
布が破裂し、
反省会の残響、パンツの囁き、
エルミナの声が一斉に跳ね返る。
『反省は準備です、ご主人』
「うるさい!!」
隊長
「……次」
最後の切り札。
共鳴遮断魔石。
「これは触れても壊れない」
隊長が言い切る。
アキト
「本当ですね?」
「……多分」
魔石が起動。
牢屋が、
完全な無音に包まれた。
エルミナ
(すごい……耳がキーンって……)
アキト
(逆に怖い……)
ラーデン
「……来るぞ」
カン
どこかで、
小さな音。
次の瞬間。
ギィィィィン……
音が増幅された。
足音。
呼吸。
心臓の音。
全部が、
耳元で鳴る。
エルミナ
「ひゃああ!?
アキトさんの心音うるさいです!」
アキト
「知らねぇよ!!」
魔石が、
真っ二つに割れた。
静寂は、
崩壊した。
数分後。
通路。
ガルド隊長は、
深く息を吐いた。
「……改修は中止だ」
エルミナ
「ええー!?」
「理由は単純だ」
紙に、
太字で書く。
【静かにすると危険】
「……そんな牢屋があるか」
ラーデン
「ここにある」
アキト
「俺のせいですよね」
隊長は、
否定しなかった。
ただ、
一言だけ。
「……防音より、
覚悟が必要だ」
牢屋の中では、
いつも通りの音が戻っていた。
エルミナ
「じゃあ今日は、
静かに反省会します!」
アキト
「やめろ!!」
ラーデン
「明日はもっと荒れるのう」
今日も牢屋は……静かにしようとして、壊れる音が増えた。




