隊長が反省会を盗み聞き
夜。
牢屋の外は静かだった。
本来なら。
「では始めます。
本日の反省会です!」
ガルド隊長は、
通路の角で足を止めた。
(……反省会?)
中から聞こえてくる、
元気すぎる声。
エルミナ
「反省点その一!
アキトさんが触る前に、
私が止められなかったこと!」
隊長
(そこなのか……)
アキト
「そこじゃねぇ!!」
ラーデン
「方向が九十度ずれておる」
隊長は、
そっと壁に背を預けた。
(……少しだけ、聞くか)
エルミナ
「反省点その二!
市場で静かにできたのに、
喜びすぎたこと!」
アキト
「それ反省なの!?」
隊長
(静かに喜ぶ……?)
エルミナ
「次からは、
心の中で“わーい”します!」
隊長
(無理だな)
ラーデン
「人間の構造上、無理じゃ」
隊長は、
こめかみを押さえた。
(……これは、反省会じゃない)
エルミナ
「反省点その三!」
アキト
「まだあるの!?」
エルミナ
「隊長に“問題吸引体質”って
言い換えてあげなかったことです!」
隊長
「……」
無言で、
拳を握る。
(俺をフォローする反省か……)
ラーデン
「余計なお世話じゃな」
そのとき。
くすり。
通路に、
微かな声が混じった。
『反省とは、
同じことを繰り返すための準備です、ご主人』
隊長
「……?」
隊長の背筋が、
凍った。
(今の、誰だ)
アキト
「パンツ黙れ!!」
隊長
(パンツ……?)
エルミナ
「今日は哲学的ですね!」
隊長
(聞こえた。
確かに、聞こえた……)
隊長は、
ゆっくりと一歩下がった。
(……これは、
報告書に書けない)
牢屋の中。
エルミナ
「以上で反省会を終わります!」
アキト
「何も終わってねぇ!」
ラーデン
「明日もやる気じゃな」
その直後。
ゴン。
通路の壁に、
隊長の額が静かに当たった。
「……」
隊長は、
誰にも聞こえない声で呟いた。
「……やっぱり、
外に出すべきじゃなかった」
そして、
足音を殺して立ち去る。
牢屋の中では、
何事もなかったかのように
次の話題が始まっていた。
エルミナ
「じゃあ次は、
改善案を考えましょう!」
アキト
「やめろ!!!」
ラーデン
「明日は荒れるのう」
通路の奥で、
隊長は最後に一度だけ振り返った。
……牢屋の扉を。
「……防音、
本気で考えるか」
今日も牢屋は……反省より先に、聞いてはいけない声があった。




