隊長が直々に同行(地獄)
その日の午後。
「……で、だ」
街角で腕を組み、
ガルド隊長は低い声で言った。
「本日残りの仮出所時間、
俺が同行する」
アキト
「地獄だ……」
エルミナ
「隊長直々!?
私、ちゃんと静かにできます!」
ラーデン
「それが一番信用ならん」
隊長はアキトを睨む。
「いいか。
今日は三つだけだ」
指を立てる。
「一、触るな」
「二、止めるな」
「三、終わらせるな」
アキト
「全部俺の存在否定してない?」
エルミナ
「じゃあ歩くだけですね!」
隊長
「歩くのは許可する」
ラーデン
「息は?」
隊長
「静かにな」
アキト
「人権!」
四人は並んで歩き出した。
異様な緊張感。
露店の前。
店主
「おや、パンツの」
隊長
「言うな」
店主
「はい」
次の瞬間。
カタン。
露店の自動釣銭箱が、
微かに震えた。
アキト
「俺、何もしてない」
隊長
「止まれ。
お前は今、存在した」
エルミナ
「すごい……
存在だけで警戒されてます……」
釣銭箱が、
コロコロと暴走し始める。
店主
「ちょ、ちょっと!
それ、高いんです!」
隊長
「……触るな」
アキト
「触ってない!」
箱は完全に制御不能。
ラーデン
「ふむ。
放っておくと爆ぜるな」
エルミナ
「じゃあ私が魔法で」
隊長
「やめろ!!」
全員が止まった、その瞬間。
釣銭箱が
自分からアキトにぶつかってきた。
アキト
「来るなぁぁ!!」
パキン。
触れてないのに、
魔力だけが途切れた。
箱は、ただの箱になった。
沈黙。
店主
「……直った?」
隊長
「……」
隊長は空を見上げた。
「……俺は何を監視してる?」
エルミナ
「アキトさんは、
“近くにいるだけで終わる人”です!」
アキト
「言い換えるな!!」
隊長は深く息を吸う。
「……もういい。
次は、何も無い場所へ行く」
ラーデン
「では橋の上などどうじゃ?」
隊長
「よし。
何も無い」
橋の中央。
風が吹く。
静かだ。
ギシ。
橋の端の補助魔石が鳴った。
隊長
「……何も無いとは?」
ラーデン
「魔石はあったのう」
エルミナ
「アキトさん、見ないでください!」
アキト
「視線まで制限されるの!?」
魔石が光り始める。
隊長
「……」
隊長は、
ゆっくりとアキトの肩を掴んだ。
「……分かった」
アキト
「なにが……」
隊長
「お前はもう、
歩くな」
アキト
「最終的にそこ!?」
隊長は静かに言った。
「仮出所終了後、
すぐ牢屋に戻れ」
エルミナ
「えぇ!?」
隊長
「……あそこが一番、
被害が少ない」
ラーデン
「最適解じゃな」
アキト
「納得いかねぇ……!」
こうしてアキトは、
“隊長同行=被害最小化策”
という、
最悪の評価を確定させたのだった。




