隊長が報告書を見て頭を抱える
治安部隊本部。
隊長室は、朝から異様に静かだった。
……いや、正確には
音を立てられないほど、空気が重い。
ガルド隊長は机に肘をつき、
一枚の報告書を睨んでいた。
紙の上には、
見慣れた名前がある。
アキト。
「……」
隊長はゆっくりと、
一行目を読む。
市営魔道具保管所
臨時検査報告
担当:仮出所中の一般人
「一般人……?」
隊長のこめかみが、ぴくりと動いた。
・自己点灯ランプ:魔力異常解消
・自動掃除ホウキ:魔法機能停止(正常化)
・警報魔石:恒久的静音化
「……恒久的?」
隊長は、紙をめくる。
・未登録封印箱:封印解除
※中身は帳簿のみ
「解除……?」
隊長は、頭を抱えた。
「……なんで仮出所中に
こんな実績を積んでるんだ……」
さらに、最後の一文。
総評
当該人物は
「魔力異常を感知・沈静化する能力」を有する可能性あり。
再依頼、検討の余地あり。
「検討するな!!」
隊長の叫びが、
静かな部屋に虚しく響いた。
そのとき、扉がノックされた。
「失礼します。
隊長、あの……」
入ってきたのは、
若い部下だった。
隊長
「言うな。
どうせ“あいつ”の話だ」
部下
「はい。
倉庫街の方から追加報告が……」
隊長
「やめろ。
俺の胃に準備時間をくれ」
部下は恐る恐る、続きを告げる。
「魔道具保管所の管理官が、
“また来てほしい”と……」
隊長
「来るな!!!」
机に突っ伏す隊長。
「俺は言ったはずだ……
目立つな。働くな。善行を積むな……!」
部下
「……ですが、被害はゼロで……」
隊長
「それが一番厄介なんだ!!」
隊長は、報告書を指で叩く。
「被害ゼロ、苦情ゼロ、
その上“便利”だと……
街はあいつを手放さなくなる……」
部下
「……英雄、ですか?」
隊長
「違う」
隊長は即答した。
「災害指定前の便利物件だ」
その頃
街外れ。
アキトは大きくくしゃみをした。
「……誰か俺の悪口言ってない?」
エルミナ
「褒めてるんじゃないですか?」
ラーデン
「いや、
胃を痛めておる顔が浮かぶのう」
アキト
「それ褒められてないよな……」
隊長室に戻る。
隊長は、報告書の山を見て、
静かに決断した。
「……監視を強化する」
そして小さく呟く。
「次は、
絶対に一人で歩かせん……」




