安全な魔法? エルミナの“絶対に失敗しない魔法”が失敗する
いつものように、俺は牢屋の藁ベッドで朝を迎えた。
「…………平和な朝だ……(牢屋基準)」
「アキトさん、起きてますかー!」
「平和終わったァァァ!!」
鉄格子の外に、エルミナがピカピカの笑顔でいる。
その笑顔が最近は一番怖い。
「今日は安心してください! “絶対に失敗しない魔法”を持ってきました!」
「信用度0!! むしろマイナス!!!」
「大丈夫ですよ! だってこの魔法、成功率100%なんです!」
「この世界の“成功”って概念めちゃ怪しいんだよな……しかもエルミナだし……」
しかし、言っても無駄なのは三日目でよくわかった。
今日も仮釈放の紙がすっと俺の前に差し出される。
「よろしくお願いします、記録上の責任者さん」
「その“記録上”って言葉、まじで呪いだろ!!?!」
街の外れ。
何もない草原。
そして目を輝かせるエルミナ。
「あのですね、アキトさん。今日の魔法は“絶対に失敗しない生活支援魔法”なんですよ!」
「おっ、生活支援? いいじゃん。なんか日常的な……」
「はい! まずは、《自動掃除》です!」
「平和!! ありがとう!!」
「お任せください! エルミナちゃんの特製ですよ!」
……特製。
「嫌な単語出てきた!!」
「じゃあ、いきますね!」
エルミナは杖をふりかざし、詠唱を開始した。
「《オートクリーニング——全域拡大版!!》」
「全域!? やめろぉぉ!!」
ドゴァァァァァ!!!!!
光が爆ぜた。
大地が震えた。
「なにこの大魔法みたいなエフェクト!!?」
そして次の瞬間。
草原が。
森が。
丘までも。
ぜんぶ……
ツルッツルのピカピカになっていた。
「……なんか床みたいに磨かれてるな」
「はい! 世界をお掃除しました!」
「規模おかしいだろォォ!!?」
「だって《全域拡大版》なので!」
「標準版使ってくれよ!!」
そこへ森の動物たちが滑りながら転がってくる。
「ぎゃあああ!? ウサギがスケートみたいに滑ってる!!」
「きれいですね〜、アキトさん!」
「違う意味で地獄!!」
「次は、“絶対に安全な生活魔法その2”!」
「まだやるのかよ!!」
「《自動洗濯》です!」
「名前が心配になるんだよ毎回!!」
エルミナが杖を振ると、俺の服が光り
ぶわっ!!
服が勝手に脱げた。
「なんで脱がす!? なんで洗う前の工程から始まるの!!?」
服はふわふわ浮き上がり、空中でぐるぐる回転し始めた。
まるで洗濯機。
「アキトさんの服、かわいいですね〜!」
「いや俺がかわいそうだから!!?」
しかも、俺のズボンがついに観念したように空へ飛んでいく。
「まてぇぇ!! またパンツ関連で捕まる未来!!」
衛兵たちの視線がこちらへ。
「アキトくん……今日も派手にやってるね?」
「違う!! 俺じゃない!! エルミナ!! あの魔法少女見習いが!!」
「パンツ一枚の変態は君だよ」
「その言い方やめてェェ!!」
「最後は、今日の目玉!! “絶対に失敗しない魔法その3”!」
「もう帰らせてくれ……牢屋のほうが安全……」
「《自動修復》です!」
「お!? これはまともそう!」
「あの塔も修復できます!」
「鐘楼!? あれ直してくれるの!?」
「はい! あの崩れた部分も今日で綺麗に!」
「超助かるううううう!!!」
エルミナが杖を掲げる。
「《オートリペアーーーー最大出力!!》」
「最大はやめろおおおお!!!!」
バゴォォォォォン!!!
稲妻のような魔力が街中へ一直線に走る。
鐘楼に直撃。
そして。
新しい鐘楼が三倍のサイズで生えた。
「なんで増築したァァァァ!?!?」
「アキトさん! 高さも三倍です!!」
「そこ誇らしげに言う!? 巨大化してるから!!」
街人たちがざわつく。
「なんかデカい城みたいなの生えたぞ……」
「パンツ男、またやったらしい」
「違ううううううう!!!!」
案の定。
俺は衛兵に肩をつかまれた。
「今日も……やっちゃったね」
「俺じゃないって!! エルミナが!! ほらそこに!!」
振り返ると
エルミナがキラキラの笑顔で手を振っていた。
「アキトさーん! 明日はもっと安全な魔法持ってきますね!!」
「もっと!? やめて!! やめてぇぇぇ!!」
「はい、じゃあ連行しますね」
「いやだぁぁぁ!!!」
そして俺は今日も牢屋に逆戻りした。
世界はピカピカ。
服は空中でまだ回っている。
鐘楼は巨大な塔になった。
そして今日も異世界は平和(?)である。




