魔道具保管所で地獄の検査
倉庫街の奥。
分厚い扉の向こうに、その場所はあった。
【市営・魔道具保管所】
アキト
「……嫌な予感しかしない」
エルミナ
「大丈夫ですアキトさん!
触るだけです!
静かに! 優しく! そっと!」
ラーデン
「“そっと触って終わらせる”のは
得意じゃからの」
アキト
「褒めてないよなそれ……」
中へ入ると、
棚、棚、棚。
無数の魔道具が整然と並んでいた。
剣、ランプ、杖、指輪、箱、
見たこともない謎の球体まで。
管理官
「こちらが本日の検査対象です」
アキト
「多っ!!」
管理官
「最近、不調の報告がありまして。
“魔力が漏れる”“勝手に動く”など……」
エルミナ
「……アキトさんみたいですね」
アキト
「おい」
最初の魔道具は、
自己点灯ランプ。
アキトがそっと触れた瞬間。
スン。
光、消失。
管理官
「……あ」
エルミナ
「静かですね!」
アキト
「今の、検査? 破壊?」
ラーデン
「“安らかにした”んじゃな」
次は、
自動掃除ホウキ。
アキト
「やめとこうか、これは」
管理官
「ぜひお願いします」
触れた瞬間。
パラッ。
ホウキ、普通のホウキになる。
エルミナ
「職業的に因縁ありますね!」
アキト
「忘れさせてくれ!!」
次は、
警報魔石。
管理官
「異常時に大音量で……」
アキト
「静音って言ったよな!?」
触れた瞬間。
……無音。
管理官
「……鳴りません」
アキト
「よし!」
管理官
「ですが……
今、街の警報網から
一基、永久に外れました」
アキト
「ダメじゃん!!」
エルミナ
「減りましたね!」
アキト
「減らすな!!」
ラーデンは興味深そうに棚を見る。
「ほほう……
“未登録品”も混じっとるな」
管理官
「え?」
その瞬間、
棚の奥で
ガタガタガタッ!
謎の箱が、
勝手に震え始めた。
管理官
「そ、それは触らないでください!
封印中です!!」
アキト
「そういうの一番触る流れだろ!!」
箱は自力で跳ね、
床に落ちる。
エルミナ
「ひぇっ!?
何か出ます!?」
ラーデン
「いや……
“出たがっておる”のう」
アキト
「触るなって言われたやつほど
気になるんだよ……」
アキトが恐る恐る触れる。
カチ。
箱、沈黙。
封印魔法だけが、
“きれいに解除”された。
管理官
「……中身は?」
箱を開けると、
中にあったのは
大量の書類。
アキト
「……紙?」
管理官
「十年前から
魔力が漏れ続けていた
“自動仕分け帳簿”です……」
エルミナ
「魔力、無駄に使いすぎでは?」
ラーデン
「魔法の使いどころを
間違えた例じゃな」
管理官は深く頭を下げた。
「……検査、完了です」
アキト
「俺、何個壊した?」
管理官
「いえ……
“全部、正常化しました”」
アキト
「それ褒め言葉なの?」
エルミナ
「すごいですアキトさん!
魔道具界の終活係!」
アキト
「不吉な職名つけるな!!」
こうしてアキトは、
魔道具保管所において
“触ると全てが静かに終わる男”
として、
半日で伝説を作ったのだった。




