この事件で変な仕事を振られる
市場の片付けが一段落した頃、
三人は路地の端で水を飲んでいた。
アキト
「……なあ。
これ以上、何も起きないよな?」
エルミナ
「はい!
今日はもう“解決”しましたし!」
ラーデン
「その“解決済み宣言”も危険じゃぞ」
その時。
「すみません……!」
控えめな声がかかった。
振り向くと、
市場の商人らしき中年の男が、
やたら丁寧に頭を下げている。
商人
「さきほどは、本当に助かりました……!」
アキト
「あ、いえ……
俺、触っただけなんで……」
商人の目が、きらりと光った。
「……触っただけ?」
エルミナ
「はい!
アキトさん、触ると大体終わります!」
アキト
「言い方!!」
商人は食い気味に前へ出る。
「お、お名前を……!」
アキト
「え、あの……
今、仮出所中で……」
商人
「仮出所!?
ではなおさら!」
アキト
「意味が分からないから怖い!!」
商人は懐から一枚の紙を取り出した。
「ぜひ、こちらのお仕事を……!」
紙には大きく書かれていた。
【臨時業務:魔力検査係】
アキト
「……は?」
エルミナ
「検査係……?」
ラーデン
「ほう。
魔法具の“調子を見る役”かの」
商人
「そうです!
最近、魔力暴走や不具合が多くて……
ですがあなたなら、
触るだけで分かるでしょう?」
アキト
「いや、分かんねぇ!!
壊れてるだけだ!!」
エルミナ
「でもアキトさん、
壊れる前に“終わらせる”から
安全ですよね!」
アキト
「安全の定義どうなってる!?」
商人
「もちろん正式な雇用ではありません!
あくまで……」
商人は声を潜める。
「仮出所中の“善行扱い”です」
アキト
「逃げ道塞ぐのうまいな!?」
ラーデン
「まあまあ。
牢屋よりは椅子があるじゃろ」
エルミナ
「アキトさん!
お仕事ですよ!
ついに“働いた実績”が!」
アキト
「やめろォ!!
その言葉が一番ダメージでかい!!」
商人は深々と頭を下げた。
「場所は倉庫街の魔道具保管所です!
一日だけ!
音を立てず、触るだけで結構です!」
アキト
「……音を立てずに触るって、
俺向きすぎない?」
エルミナ
「静音特化職ですね!」
ラーデン
「騒音犯からの転職じゃな」
こうしてアキトは、
仮出所中なのに、
“魔力検査係(臨時・非公式・責任重め)”
という、
一番向いてないのか向いてるのか分からない仕事を
振られたのだった。




