ぶらぶら中に起こる街の事件
久々のシャバ。
三人は市場通りを、目的もなくぶらぶらしていた。
アキト
「……なあ。
静かすぎないか?」
エルミナ
「いいことじゃないですかアキトさん!
今日は“何も起こさない日”です!」
ラーデン
「それを口に出した瞬間、
八割の確率で何か起きるぞ」
エルミナ
「大丈夫です!
私、今日は転びませんし!
呪文も唱えませんし!
パンツのことも考えてません!」
アキト
「最後の一個いらん!」
―――ガシャァァン!!
全員
「ほらぁ!!」
市場の坂の上から、
制御魔法付きの大型荷車が暴走してきた。
箱が揺れ、車輪が跳ねる。
進行方向の先には、人だかり。
エルミナ
「ひえええ!?
あれ完全に事故案件です!!」
アキト
「よりにもよって仮出所中に!?」
ラーデンは目を細める。
「ふむ……
あれは“止める魔法”より
“魔法そのものを切る”方が早いな」
エルミナ
「じゃあ私が止めまー」
アキト
「ダメ!!
お前の“止める”は“爆発音付き”だ!!」
エルミナ
「失礼な!
爆発は……三回に一回です!」
アキト
「多いわ!!」
荷車はもう目の前。
アキト
「……くそっ」
考えるより先に、
アキトは荷車の側面に手を伸ばした。
触れた瞬間。
パキッ。
嫌な音も、派手な光もなく。
魔法だけが、ふっと消えた。
次の瞬間、
荷車は「ただの重い木箱」になり、
ゴロ……と力なく止まる。
沈黙。
エルミナ
「…………止まりました?」
ラーデン
「うむ。
実に静かじゃな」
アキト
「いや俺、
“静かにしよう”とか一言も言ってないからな!?」
周囲の人々がざわつく。
「今の見た?」
「触っただけ?」
「音しなかったぞ……?」
エルミナはアキトをじっと見つめる。
「アキトさん……
やっぱりその体、
魔法に嫌われてません?」
アキト
「嬉しくねぇ称号つけるな!!」
そこへ
「……やはり、お前らか」
治安部隊の隊長が、
胃を押さえながら現れた。
アキト
「隊長!?
いやこれは違うんです!」
隊長
「聞かんでも分かる。
どうせ“触ったら終わった”んだろ」
ラーデン
「うむ。
実にお行儀のいい事件解決じゃ」
隊長はため息を吐く。
「被害なし、怪我人なし、苦情……少なめ」
エルミナ
「やりました!
静かでした!」
隊長
「市場が一瞬凍りついたがな」
アキト
「それ静か扱いでいいの!?」
隊長は背を向ける。
「……仮出所中に
“目立たず善行”を積むな。
評価表が狂う」
そう言って去っていった。
エルミナ
「……アキトさん。
やっぱりぶらぶらするだけで事件起きますね」
アキト
「俺のせいみたいに言うな……」
ラーデンは満足そうに笑った。
「まあよい。
牢屋よりは、空が見える」
こうして三人は、
“何もしてないのに事件を終わらせた連中”
として、
また一つ、街の噂を増やしたのだった。




