領主様を帰した後、久しぶりの“パンツの気配”
昼すぎ。
牢屋はようやく、昨日までのカオスが嘘のような静けさを取り戻していた。
「……やっと帰ったな」
ラーデンが腰を鳴らしながら言う。
領主様は“昼食改革”にまで手を出そうとしたが、三人と看守総動員の説得でなんとか帰っていった。
「つ、疲れた……」
アキトは魂が抜けたみたいになっていた。
「だって領主様、『この牢屋は伸びしろの塊だ』って本気でしたもん……!」
エルミナは顔を引きつらせながら、壁に寄りかかっている。
「ふむ。あれは“改善狂”の目じゃ」
ラーデンがうなずく。
ようやく、静かになった
そう、思った瞬間。
「……あれ?」
アキトが、ぴたりと動きを止めた。
「どうしたんじゃ、若造」
とラーデン。
「なんか……呼ばれた気がした……」
「誰にですか!?」
エルミナが即ツッコミ。
アキトは、うっすら青ざめながら答えた。
「聞き間違いだと思うけど……
“……ご主人……朝メシ……ぬるかった……”
みたいな voice が……」
「パンツ!? パンツが温度に文句言い出してます!!!」
エルミナが両手で顔を覆う。
ラーデンはにやりと笑った。
「ほぉ……“残響”に人格が出始めたかもしれんのぅ」
「やだよそんな進化!!!」
アキトは即否定。
ラーデンは魔力の流れを読むように目を細めた。
「呪いの品には“消滅後も言葉だけ残る現象”がある。
生前の魔力が残っとる場合とな……」
「パンツの“生前”って何……?」
アキトが震える。
「パンツの魔力、根深すぎません……?」
エルミナも震える。
と、そこへ
ひそ……ひそひそ……
(ご主人……今日も……働かずに終わりそうですねぇ……)
「うわああああああああああ!!!?」
アキトが跳ね上がる。
「パンツ!! 嫌味言ってます!!!」
エルミナが絶叫。
「はっはっは……性格悪いパンツじゃのう」
ラーデンは腹を抱えて笑った。
だが、残響は続く。
(ご主人……つぎの仕事も……どうせ……ぐちゃぐちゃ……ですよぉ……)
「未来予知してんじゃねぇ!!!」
アキトは鉄格子に頭をぶつけながら叫ぶ。
(……でも……心配しないで……
ご主人がどんなに……仕事できなくても……
パンツは……ご主人の下半身を……永遠に応援してます……)
「応援の仕方が最悪だよ!!!!」
アキト絶叫。
「ひぃぃ……パンツのくせに心が深い……のか浅いのかわからない……」
エルミナがさらに混乱。
「ふむ。これはもはや“幽霊パンツ”じゃな」
とラーデンは勝手に命名して満足げ。
「そんなカテゴリーいらない!!!」
アキトは床に崩れ落ちた。
そして最後に
(ご主人……また夜、来ますからねぇ……)
囁きは消えた。
牢屋に、変な寒気だけが残った。
今日も牢屋は……静まった途端に下半身が騒ぐ。




