鳥の求愛と、アキトの逃亡計画
パンツの呪いが終わったのに、なぜか“恋の呪い”が始まった翌日。
俺は今日も牢屋の藁ベッドの上で震えていた。
「…………外に……いる……」
鉄格子の向こう、朝日を浴びてキラッキラに輝く巨大な青い鳥。
ピンク色のオーラをまとい、甘い声で鳴く。
「キュルルルル♡」
「なんで昨日からずっと見張ってんだよ!!?」
あの“恋する怪鳥ブルル”は、完全に俺をロックオンしてしまっていた。
魔法の副作用って怖すぎる。
衛兵がコーヒーをすすりながら言った。
「モテモテだねえ」
「鳥にモテても嬉しくねぇよ!!」
「記録上、求愛相手は君だからね」
「“記録上”って便利すぎだろ!!?」
そこへ、元凶のエルミナが元気よく登場する。
「アキトさーん! 今日こそ出ましょう!!」
「やめて……俺が外に出たらたぶんプロポーズされる……」
「いいじゃないですか、愛ですよ!」
「相手が人間ならな!!」
エルミナは胸を張る。
「安心してください! 今日こそその“恋の魔力”を解除します!」
「よっしゃあ!! じゃあ帰る!! 牢屋でもいい!! 今日だけは!!」
「いえ、外に出ないと解除できません!」
「絶対そう言うと思ったぁぁぁ!!」
結局いつものように仮釈放され、俺はブルルとエルミナに挟まれながら牢屋を出た。
ブルルが俺の横でそっと羽を広げる。
「キュルルル……(求愛ダンス)」
「なんかステップ踏んでるぅぅ!!?」
「アキトさん、こんなに愛されて……うれしいですね!」
「エルミナぁぁ!! ほんとに解除頼むぞ!!?」
街の外れの丘で、解除魔法の準備が始まった。
「この魔法は、対象と“深い心の共有”が必要なんです」
「やばい予感しかしない」
「アキトさんとブルルさん、向かい合ってください」
「ほら来た!! ほら来た!! 最悪のやつ!!」
ブルルはすでにうるうるした瞳で俺を見つめている。
「キュルルル♡」
「そんな乙女みたいな顔すんなぁぁ!!」
「では、愛の同調儀式を始めます!」
「名前!! 名前が怖い!!」
エルミナが詠唱を始める。
「心と心、想いと想い、きらめきの糸で繋げ……」
「やめろおおおお!! これ以上繋がりたくねぇ!!」
「《愛心融合》!」
ぼふっ!!
俺とブルルの胸が光り、薄いピンクの糸が生まれる。
「繋がったぁぁぁ!? やばい! これ完全に婚約の儀だろ!!?」
「キュルル♡♡」
ブルルは完全に乗り気。
俺は完全に死にたい。
「エルミナ!! 解除するんじゃなかったのかよ!!?」
「はい、今から“感情を逆転させる工程”に入ります!」
「はやくぅぅぅ!!」
「次は、二人が“もっと嫌いになるような刺激”を与えます!」
「なんでそんな方法なんだよ!!」
「だって、ブルルさんがアキトさんを好きになったのは魔法の誤作動ですから。逆作用を使うんです」
「……つまり?」
「アキトさんが、ブルルさんの嫌がることをするんです!」
「無理だよ!! そもそも何が嫌いなのか知らねぇし!!」
「大丈夫! たぶん“距離を取られる”のが一番嫌だと思います!」
「それ“距離を詰めに来る”やつじゃん!!?」
しかしもう魔法は始まってしまっていた。
「ではアキトさん、思い切り走ってブルルさんから逃げてください!」
「やっぱりそうなったぁぁぁぁ!!」
「よーーい……逃げろ!!!」
「なんで号令つきなんだよぉぉ!!?」
俺は全力で駆け出した。
「キュルルルル!!!!♡(全力追跡)」
「やっぱ追ってきたあああああ!!」
丘を駆け降り、森へ飛び込み、川を飛び越え、街道を必死で走る俺。
そのたびに恋する怪鳥が羽ばたき、俺を追いかける。
「アキトさん頑張ってーーー!! 愛に負けないでーー!!」
「応援の方向おかしい!!」
その瞬間。
俺は足を滑らせ、街外れの泥沼に突っ込んだ。
「うわああああ!!!?」
「キュ……キュルル……!?」
ブルルが急停止。
泥まみれの俺を見て、鳥は驚愕して震えた。
「キュゥゥ……ッ!?」
羽を広げて後ずさり……そして……
「キュルルルルルゥゥゥ!!(嫌ァァァ!!)」
全力で逃げていった。
「お? おお……??」
エルミナが駆け寄ってくる。
「アキトさん!! 成功です!! ブルルさん、完全に恋が冷めました!!」
「え、もしかして俺が汚すぎて?」
「はい!」
「喜んでいいのかそれぇぇぇ!!!?」
街に戻ると、衛兵が腕を組んで待っていた。
「今日の騒ぎ……ブルルが街上空を泣きながら飛び回っていたらしいね?」
「俺じゃない!! 今日は完全にエルミナの魔法だ!!」
「記録上は君だよ」
「記録上に俺の人生を壊されるううう!!」
もちろん、俺は牢屋へ逆戻り。
エルミナが鉄格子の前でにこやかに言った。
「アキトさん、大丈夫です! 明日は“もっと安全な魔法”を研究しますね!」
「やめろぉぉぉ!! その言葉が一番怖い!!」
今日も異世界は平和(?)である。




