エルミナの「領主様やらかし事件」
牢屋視察の翌日。
エルミナは緊張していた。
(今日は領主様がまた来るかもしれない。
絶対に! ぜーーーーったいに失礼はしちゃだめ!!)
両手をぎゅっと握る。
アキトは隣でのんびりしている。
ラーデンは鍋の味見をしている。
(落ち着いて、私。今日は完璧な見習い衛兵として……!)
そう思った瞬間
廊下の向こうから再びあの気品ある足音が近づいてきた。
カツ、カツ、カツ。
「来た……! 本当に来た!!」
動揺のあまり、エルミナは反射的に敬礼した
が、その勢いが強すぎた。
ゴンッ!!
「いったぁああああああ!!」
頭を鉄格子にぶつけた。
領主様が入ってきた瞬間の光景はコレである。
・エルミナ:頭抱えて床で転がる
・アキト:驚いて椅子から落ちる
・ラーデン:鍋の蓋を空中キャッチ中
領主様は静かに言った。
「……これは、何の儀式だ?」
「ち、違います!!!これは儀式じゃなくて、ただの私の……私の……!!」
「ドジ?」
とアキトが小声で言う。
「アキトさぁぁぁぁん!?!?」
気を取り直して姿勢を整えたエルミナ。
しかし緊張が限界に達していた。
「領主様、本日はご視察ありがとうございます!!
しっ、しかし、あの、その、あの、領主様は今日も……」
言葉が滑った。
「……今日も 牢屋に入り浸り で……!!」
牢屋に入り浸り。
牢屋に入り浸り。
牢屋に入り浸り。
三回くらい響いた。
アキトが絶望した顔をする。
看守が土下座を始める。
ラーデンが「言うたな……」と呟く。
領主様はピクリとも動かず、ただ目を細めた。
「……ほう?」
「い、いえ違うんです!!私はその、えっと、あの、領主様が牢屋を……その……」
エルミナの口が勝手に動いた。
「……気に入りすぎて心配です!!」
「 牢屋を気に入りすぎて?」
「ひぃぃぃぃぃ!!!」
極限までテンパったエルミナは、
“魔法少女見習いらしく魔法で誤魔化す”という
最悪の選択をしてしまう。
「こ、ここここここで一つ……!
魔法少女見習いの華麗な魔法をご覧ください!!」
アキト「やめろエルミナァァァ!!」
ラーデン「まだ鍋も煮えとらんぞ!!」
止める暇もなく
エルミナは杖を振った。
「ふぁいあ☆きゃんどる!!」
ドゴォォォォン!!!
爆発音が鳴り響いた。
爆発したのは、彼女の杖だけだった。
領主様のマントが少し焦げる。
(死んだ……)
エルミナの脳内で鐘が鳴った。
しかし領主様は、
なぜかフッと笑った。
「……ふむ。面白い娘だ。実に飽きん」
「えっ!?飽き……何が……?」
「よい。お前たち、引き続きここを好きに使え。
わしはまた来る」
そして優雅に去っていく領主様。
看守は泣いた。
「なんで……なんでこの牢屋、偉い人が気に入り始めてるんだ……!」
エルミナ(泣きながら)
「今日も牢屋は、恥の記録が増えましたぁぁぁ!!」




