領主様、ついに現る
その日の昼下がり。
牢屋の廊下に、いつもと違う硬い靴音が響いた。
カツ、カツ、カツ
音だけで偉い人が来たとわかる。
看守が青ざめた顔で飛び込んできた。
「三名とも立て! 領主様の視察だ!!」
アキト、エルミナ、ラーデンは同時に固まる。
「……え、今日?」
「ひぃぃ……私まだ記録帳片づけてないのに……」
「儂の鍋が煮えとるんじゃが……」
そんな混乱の中、牢屋の扉がギィ、と開いた。
黒いマントを翻し、上品な銀髪をまとめた領主様が入ってくる。
表情は厳格、背筋はピン。
まさに“権力のお手本”みたいな人物だ。
「……ふむ、ここが問題児アキトの常連房か」
「問題児!?」「常連!?」「房!?」
三人の声が見事に揃う。
領主様は部屋をじろりと見回す。
壁には花の飾り。
なぜかふわふわの座布団。
謎の“牢屋コレクション棚”。
そしてラーデンの煮込み鍋。
「……これは……牢屋、なのか?」
看守が震える声で答える。
「ど、どういうわけか……この三名が勝手に……」
領主様はため息をつく。
しかし次の瞬間
「……妙に居心地が良いな」
「は!?」「え!?」「だろう?」
三人の反応がまた揃う。
領主様は花の飾りを見つけて言った。
「この色合い、落ち着く。
それにこの煮込み……いい匂いがする」
「でしょうとも!」とラーデンが胸を張る。
「儂、牢屋メシ改革の旗手ですからな!」
看守が小声でつぶやく。
「やめてくれ……職場がどんどん家みたいになっていく……」
領主様は出口でふっと笑う。
「……また来るぞ、この房は気に入った」
看守
「もうだめだこの牢屋……!」
今日も牢屋は、客層が豪華になっていく。




