エルミナ視点、今日は静かに反省しようと思ったのに無理だった
魔力検査室の空気はひんやりしていて、
床にはアキトさんが倒れている。
……いや、倒れているというか、
“疲れすぎて溶けたナマケモノ”みたいになっている。
(アキトさん……ついに……魔力検査で魂まで抜かれたんですか……?)
近づいて確認すると、
ただ寝ているだけだった。
よかった……いや、よくはないけど……まあ、生きてる。
とりあえず机の下に転がっていた毛布を取り出し、
アキトさんにかけてあげる。
(よし。任務完了。私は優しい)
自分で自分を褒めつつ、
机の上の書類を見て「あっ」と声が漏れた。
「……全部、数字バラバラじゃないですか!」
今日のアキトさんの検査結果。
文字が踊りすぎて、もう芸術作品みたいになっている。
(これは……どう見ても魔力が大変なことに……
けど私が見てもよくわからない……
つまり問題は、私の学力……?)
深刻に悩んだふりをしてみるものの、
すぐに思考が別方向に迷走していく。
(アキトさんは今日いっぱい働いたのに、私は……
……えっと、何しましたっけ?)
数秒考えて
(うん、ほぼ何もしてない!)
胸の奥がチクッとする。
「……もっとがんばらなきゃ、私!」
小声で宣言してみると、
横で寝ているアキトさんがもぞっと動いた。
「ん……エルミナ……」
「い゛っ!?」
全身がびくんって跳ねた。
(なんで寝言で私の名前呼ぶんですか!?
え、もしかして私のこと考えて寝たんですか?
いやいやいやそんなはず……いや、ワンチャン……?)
顔が一気に熱くなる。
でも、寝言だとわかってるのに、
なんか嬉しくてどうしようもない。
「……寝ててくださいっ。あ、でも起きてもいいですけど、
いや、やっぱ寝てて……やっぱ起きて……いや……」
混乱しながら手をバタバタさせる。
(落ち着け私!私はしっかり者の……見習い衛兵!
……いや、今日はだめだ。バカだ。完全にバカの日だ)
しかし胸の中では一つだけはっきりしていた。
(明日は……もっとアキトさんの役に立ちたい)
そして、
(あと、寝言の続きも聞きたい)
と少しだけ欲張ってしまう自分がいた。
今日も牢屋は、アキトさんの寝言事件が記録更新ですっ!




