アキト、初仕事開始3秒でクビの危機
朝の牢屋。
俺は掃除用のほうきと、やたら小さいチリ取りを持たされていた。
「アキトさん、今日から掃除係として……よろしくお願いします!」
エルミナがキラッキラした目で応援してくる。
「うむ、期待しておるぞ。ワシは観察役じゃ」
ラーデンは腕を組んで座っている。
なんで俺より偉そうなんだこの囚人。
「よし……異世界で初めての労働……やってやる!」
「まずは床のほこりを掃いてくださいね!」
エルミナが元気に指示する。
「了解!」
ほうきを振り下ろした、その瞬間。
バキィッ!!
「えっ」
ほうきが折れた。
「はやっ!!?」
エルミナの悲鳴。
「まさか……三秒……」
ラーデンの目が丸くなる。
「ちょ、ちょっと待って!? 今、力入れてないぞ!? 軽くやっただけだぞ!?」
俺は折れたほうきの柄を見つめる。
折れた断面は不自然に黒焦げ。
「焦げてる……?」
エルミナが眉を寄せてしゃがみ込む。
「ふむ……アキト、そなた……」
ラーデンが俺の背後に立ち、まるで医者のように真顔で言う。
「無自覚に魔力漏れとるぞ」
「はぁあああああ!?!?」
「ほうきを握った瞬間、魔力が流れ込み、素材に耐えきれず破裂したのじゃろう」
ラーデンは当然のように解説する。
「え、俺そんな設定あった!? 無自覚チート!? いや、なんで掃除で発動した!?」
「……すごいですアキトさん!!」
エルミナが両手を胸の前でぎゅっと握った。
「ほうき一本を一瞬で破壊するなんて、前代未聞の才能です!!」
「褒め方間違ってるぞーーー!!」
「では次は……モップで水拭きをしてみてください!」
まだ諦めてないエルミナ。強い。
「よし、今度こそ……!」
モップの柄を握った瞬間。
ボンッ!!
モップが爆ぜた。
「ぎゃあっ!? なんでだよおおお!!?」
「二秒じゃったな……記録更新じゃ」
ラーデンがメモを取っている。
「記録更新するな!!」
「……アキトさん」
エルミナがしゅんと肩を落とす。
「もしかして……掃除道具、全部壊しちゃうかもしれません……」
「お、おい待て……俺、働かない以前に……働けない体なのか……?」
俺が絶望に沈むと
ラーデンがぽん、と俺の肩に手を置いた。
「安心せい。掃除ができなくとも、生きる道はある」
「前向きに励ましてるけど、俺の職業が“雑魚敵より無能”に変わっていくんだけど!?」
そして
看守が顔を出した。
「アキト、掃除係を任せたと聞いたが……どうだ?」
「はい! はりきって壊してました!!」
「言い方ぁ!!」
看守は折れたほうきと爆散したモップを見て、額を押さえた。
「……お前、クビな」
「秒でクビーーーーー!!?」
エルミナが慌てて看守に頭を下げる。
「か、看守さん! アキトさんは悪くないんです! 才能があるだけで!」
「掃除に破壊の才能はいらん!!」
その結果
俺は初仕事 “開始3秒でクビ” の新記録を達成した。
今日も異世界は平和(俺以外)。




