アキト、衝撃の真実に気づく、異世界転移後、働いてない
午前の牢屋。
いつものように、俺は石床に座ってぼんやりしていた。
「……ん?」
ふと、壁の一点を見つめたまま、思考がフリーズする。
(……俺、そういえば……)
(異世界に落ちてから……)
(働いてなくね!?)
「っ!!?」
衝撃のあまり立ち上がった俺に、エルミナとラーデンがびくっとする。
「アキトさん!? ど、どうしましたか!? 魔物でも見えました!?」
「違う……もっと恐ろしいものだ……!」
「もっと恐ろしい!?」
エルミナの顔が青ざめる。
「……俺、異世界に来てから……仕事してねぇ……!」
「…………え?」
「え?」
エルミナもラーデンも同時に首を傾げた。
「そ、それは……その……」
エルミナが言いづらそうに指をもじもじさせる。
「アキトさんはですね……ずっと……」
「……ずっと?」
ごくり。
「……牢屋で暴れてましたよね?」
「働いてないどころか、マイナスまですすんでおるな」
ラーデンが普通の顔で言った。
「うぐっ!!」
心に刺さる。
言われてみれば、一日目はパンツ騒ぎで逮捕され、
二日目は青い鳥に攫われて騒ぎを起こし、
三日目は塔の崩壊未遂で捕まって、
四日目以降は牢屋の常連扱い。
(……いやだ……この世界での俺の肩書き、
“無職の問題児”じゃん……!)
「だ、脱獄どころか、転職しなきゃ……!」
頭を抱える俺。
すると
エルミナが胸に手を置き、決意の熱い目で俺を見た。
「アキトさん……!」
「働かなくても、生きててくれればいいんです!!」
「違う!!? 違う方向に優しくすんな!!?」
「そうじゃろう……働かぬ者でも、日々の幸せは作れる」
ラーデンがゆっくりと頷く。
「もう働かない前提になっとるーーー!!」
俺の悲鳴が牢屋にこだました。
「じゃあアキトさん、明日から“牢屋のお掃除係さん”やってみませんか?」
エルミナが希望に満ちた笑顔で言う。
「いや……それって……」
「大丈夫です! 私も一緒にやりますから!」
「うむ。ワシも見ておこう」
「ほぼ監視じゃねぇか!!」
こうして俺は、異世界で初めての“職業”を得た。
肩書き:囚人掃除係(※職業扱いか不明)
今日も異世界は平和だ。




