牢屋ゆるゆる騒動編 『昼寝したエルミナにイタズラしてはいけない(大事なことなので二回言う)』
午後の牢屋は陽当たりがいい。
珍しく、エルミナが机に突っ伏して
すぅ……すぅ……と、寝息を立てていた。
アキトがそっと近づく。
「珍しいな……エルミナが昼寝なんて」
「魔力の使いすぎじゃろうな。寝かせておけば回復するじゃろ」
と、言いながらラーデンはすでに悪い顔をしている。
「……で、アキトよ。どうする?」
「いや“どうする”って何!?」
「イタズラに決まっておろう。お返しじゃ。
この前、昼寝中にやられたのぉ?」
「あれは……まあ、うん……」
アキトが視線を落とすと、エルミナの寝顔はあまりにも平和で。
少しだけ……可愛い。
「……ちょっとくらいなら……」
「悪堕ち早いのぉ!!」
「とりあえず、ほっぺをぷにっと……」
アキトがそっと指で触れる。
もちっ。
「おお……柔らかい……」
「ふぉっふぉっ、若いってよいのぉ」
その瞬間。
ビキッ!!
エルミナの髪が一瞬だけ“逆立った”。
「おい今なんか走らなかった!?」
「感知魔法が暴発しおったな。寝てても働くらしい」
「めんどくさ!!」
アキトは羽ペンをつまんで鼻先をつつく。
するとエルミナは寝言を言った。
「……魔力……ぷしゅー……」
「え、可愛い……」
「よし、もっといけ」
こちょこちょ、とつついた瞬間。
ぱぁん!!
「うわっ!?」「な、なんじゃ!?」
エルミナの周囲で、
無自覚・無属性の小爆発が発生した。
アキトの髪は前方向にバーン。
ラーデンの髭は上方向にモジャァッ。
「くっ……これが……エルミナの“寝ぼけ魔力噴火”……」
「初めて聞くよその単語!!」
ラーデンが近づき、ニヤリ。
「ではこれが最後じゃ……寝言誘導。
“アキトのどこが好きなのか”聞くぞ」
「いや待ってそれは――!!」
「エルミナよ……アキトの……どこが……」
エルミナの眉がぴくりと動く。
「……す……き……?」
アキトの心臓がドクン。
「来るぞ来るぞ……!」
ラーデンが身を乗り出す。
エルミナが寝言を続ける。
「……アキトさんの……」
アキト「……(ゴクリ)」
エルミナ「……馬鹿みたいなとこ……すき……」
「告白した!?」「いや褒めてない!!?」
エルミナの寝顔が少し笑った。
「……すき……でも……」
「でも?」
「……騒がしいと……魔法……暴発……する……」
次の瞬間。
どぉぉぉぉん!!!
牢屋の壁が“内側からふくらむ”ほどの衝撃が走り、
アキトもラーデンも吹っ飛んだ。
「ぎゃぁぁぁぁ!?」「ひげぇぇぇ!!?」
エルミナはまだ寝ている。
静かに、平和そうに。
しばらくしてエルミナが起きた。
「……あれ? アキトさん、髪が爆発したみたいに……」
「気のせいだよ!!」
「おじいさんの髭も……?」
「気のせいじゃ!!」
「牢屋の壁……ふくらんでますよ?」
「「気のせい!!!」」
エルミナは不思議そうに首をかしげた。
今日も牢屋は昼寝ひとつで大災害だった。




