禁止賭博取り締まり編 能力よ、黙っとれ
今日も牢屋は、妙な緊張感に包まれていた。
昨日の“寝相賭博事件”を受け、
隊長が張り切って罰則強化を発表したのである。
「いいか、囚人ども! 寝相賭博は
本日より全面禁止だ!!」
が、囚人たちの表情はどこか自信満々だった。
「(……ふっ)」「(まぁ無理だろ)」
「(隊長さん、知らないんだな……)」
その中心にいたラーデンじいさんが、髭を撫でて笑う。
「隊長殿、賭博を取り締まる前に……
賭けの元凶であるアキトの寝相をどうにかせにゃならぬ。」
「元凶って言い方やめてもらえませんか!?」アキトが抗議する。
「仕方ありません……!」
エルミナは胸に手を当て、息を吸った。
「私が! アキトさんの寝相を!
完全固定魔法で封印します!!」
「やめろォォォォ!? 人にかける魔法じゃないそれぇ!!」
「大丈夫です! 理論上は安全です! 理論上は……!」
エルミナが魔法陣を展開した、その瞬間?
アキトの体がふっと宙に浮いた。
「……ん?」
エルミナの魔法はまだ発動していない。
「ちょっ!? アキトさんが勝手に浮いたんですけど!?」
「自動発動!?」「寝相の自律進化!?」
「いや寝てないんだけど今!?」
アキトは焦り、ばたばたと宙で手足を動かすが
さらに不可思議な現象が起きる。
牢屋の壁が、ぺらりと一部だけ紙のようにめくれたのだ。
「な、なんだ今の……!? 壁が薄く……」
「アキトくんの能力……『寝相異空間操作』……?」
「そんなネーミング初耳なんだけど!?」
「理論上は」が一番怖い。
「隊長、これ……賭博じゃなくて研究では?」
「アキトの寝相に新しい現象が出るたびにデータが取れる……!」
「賭けの対象が“未知能力の発現回数”に変わっただけだぁ!」
「ダメだろ!!?」
隊長は怒鳴るが、既に手遅れだった。
囚人たちは
『今日の能力出現率』
『壁めくれの角度予測』
『浮遊継続時間オッズ』
など、よりタチの悪い賭博へと進化していた。
「もう!! 全員!! 聞いてください!!!」
牢屋がビリッと震えるほどの怒声。
エルミナの頬は真っ赤で、涙目だ。
「アキトさんの……アキトさんの寝相で遊ばないでえええ!!
わ、私だって!! ……毎日見てるけど!!
そんな……賭けの対象にされたら……!!
なんかこう……ダメなんです!!」
珍しく感情をむき出し。
囚人たちは静まり返った。
「……“毎日見てる”のところ詳しく」
「ラーデン黙れええええ!!」
エルミナが魔法杖を振り上げる。
「もう怒りました!
《拘束魔法・完全多重ロックアップ》!!
賭博器具も! 記録紙も! 全部没収です!!」
魔法が牢屋中を走り
記録用紙や石チップ、メモ板などが空中に浮かぶ。
「没収です!!……って、あれ?」
浮かんだまま、動かない。
「え? え? 魔法……止まった……?」
次の瞬間。
没収したアイテムが全部、アキトの周りにワープして積み上がった。
「なんで俺の周りに集まるのぉおお!?」
「やはり……アキトの能力が魔法干渉を……!」
「能力のせいで没収ができないってどういう事なんだよおお!?」
今日も牢屋は、取り締まりより、説明書が先だ。




