寝相賭博、開幕
今日も牢屋は、静かに始まるはずだった。
だが、朝の巡回に来た隊長は、扉を開けた瞬間に固まった。
囚人たちが、全員でアキトの寝相に賭けていた。
紙を手にした者、石ころを積み上げてチップにしている者、
さらには壁に「本日の寝相予想」と大きく書いたヤツまでいる。
「……おい。これはなんだ?」
隊長の声は低く、どこか震えていた。
「隊長、今日は“横向き二回転ひねり寝”が大穴です!」
「昨日は“逆さ吊り寝”でしたし!」
「いやいや、“床との一体化モード(仮)”が来るね!」
囚人たちが口々に言い、盛り上がる。
当のアキトはまだ寝ている。
そして、まるで期待に応えるかのように、彼がムクリと動いた。
全員が息を呑む。
「さあ来るぞ……来るぞ……!」
じり、じり、とアキトが体をねじり――
バク転の途中みたいなポーズで静止した。
「来たぁぁぁ!?『半回転・浮遊寝』ーーーっ!!」
「ちょっ……浮いてない!? なんで浮いてんの!?」「魔法か!?」
「いや、違う。アキトの寝相だ。」
※なお、アキトは完全に無自覚。
「なんで賭けてるんですかああああああああ!!??」
牢屋の隅で、“寝相監視係”として徹夜していたエルミナがようやく爆発した。
「賭博は違法! し、し、しかもアキトの寝相で賭け……!!
えっ、なんでそんなに種類あるの!?
昨日の“ブリッジ寝”は封印したはずでしょ!?」
「いや、あれは自然発生だから封印不可でして……」
「自然発生!? 寝相自然災害なの!?!?」
ラーデンは、長い髭を撫でながらにやりと笑う。
「ふぉっふぉっ……人は欲望があれば賭けるもの。
わしはただ、丁半方式で仕切りをやっただけじゃ。」
「完全に黒幕ぅうううう!!」
「隊長殿。売り上げは折半でどうじゃ?」
「乗るんじゃないよ隊長おおおおお!!!」
そのとき、アキトが再び動いた。
全員が注目する。
アキトはごろりと転がり
なぜか壁をすり抜けて隣の牢屋に顔だけ出した。
「……あれ? 俺、起きた?」
「新技:『壁からこんにちは寝』だぁぁぁぁぁぁ!!」
牢屋中、そして隊長までもが戦慄した。
今日も牢屋は、平和……なのかこれ。




