アキトの寝相を守るため、エルミナが“徹夜見張り”して事件
夜更け。
牢屋の石壁はひんやりと冷えていて、見張りの火皿からだけ温かい橙色の光が揺れていた。
アキトは藁布団の上で、今日も信じられない寝相を披露している。
さっきまで壁を蹴りつけていたかと思えば、今は逆さまになり、両手を天へ向けて伸ばしながら寝息を立てていた。
「……これは……危険ね。間違いなく、また誰かが撮りにくるわ」
エルミナは腕を組んでうなずいた。
以前、アキトの“空中ひねり寝返り”が盗撮され、街中で“芸術写真”として出回った事件があった。
アキト本人は半泣きであった。
「アキトの寝相は……放置すると国宝扱いされる危険があるわ……!」
なぜか使命感の炎に包まれたエルミナは、
牢の鉄格子の前に椅子を置き、完全に“プロの警備スタイル”で座り込む。
「よし。今日こそ、絶対に守り切る!」
胸に手を当てて誓いを立てた。
深夜2時 第一の侵入者
廊下の向こうから、コソコソと足音がした。
「……ふふ……今日こそ“星型寝返り”を撮ってやる……」
聞き覚えのある声。
街の風景画家・ロットだ。最近はアキトを“動く芸術”と呼んでいる危ない男だ。
「止まりなさい!!」
エルミナの怒声が廊下に響いた。
「ひっ!? エ、エルミナさん!? な、なんだ、徹夜見張り!?」
「当然よ。アキトは私が守るの!」
ロットはパレットを落とし、涙目で退散した。
深夜3時 第二の侵入者
今度は、鍵の束をそっと揺らす音。
「んっふふ……アキト様の“半回転寝返り”……また見られるかしら……」
街の主婦グループ“アキト観察同好会”のリーダーである。
エルミナの眉がピクリと跳ねた。
「鍵穴から覗こうとしたら、あなたの旦那さんに言うからね!!」
「ひっっ!?」
逃げる主婦。
エルミナは拳を震わせた。
「……なんなのよ、この街……!」
深夜4時 事件発生
エルミナが椅子に寄りかかり、ほんの少しだけまぶたを閉じた瞬間。
ガタンッ!
「っ!? アキト!? 誰か来たの!?」
ではなく、アキト本人が、寝返りの勢いで牢屋の中でバク宙していた。
「……あ、うあ……すー……」
完全に無意識。
しかも、偶然にも華麗な三点倒立の姿勢で寝続けている。
「芸術……すぎる……!!」
エルミナは思わず感動で震えた。
そのとき。
「こ、これだ……この瞬間だ……!!」
廊下の奥から、魔導カメラを構える“真のストーカー級盗撮魔”が走ってきた。
「来たな……ッ!!」
エルミナは椅子を蹴り飛ばして立ち上がり、
《風魔法・小突き》で盗撮魔のカメラごと吹き飛ばした。
「撮影禁止ッ!! 特に深夜は!!」
「ひぃぃぃぃ!? エルミナ鬼ぃぃ!!」
盗撮魔は泣きながら逃げた。
アキトは普通の寝姿で、ふわっと目を開ける。
「……エルミナ? なんでそんな……目の下、クマすご……」
「守ったのよ。あなたの……寝相を」
「え? 寝相守るって何!? 俺、そんな価値ないよ!?」
「あるわよ!! 街の半分が狙ってるんだから!」
「えええええ!?!?!」
アキトは布団にくるまって震えた。
エルミナは微笑んでこう言う。
「安心しなさい。徹夜は……今日で最後だから。
明日は交代で、隊長にも見張らせるからね」
「巻き込むなぁぁぁ!!」
今日も牢屋の治安は守られた?




