盗撮されたアキトの寝相事件 寝てる間に文化遺産扱い
その夜、俺は珍しく熟睡していた。
パンツの亡霊(気のせい)も現れず、ラーデンじいさんの寝息も穏やか。
牢屋がこんなに静かなのは奇跡だった。
だが。
「……ね、寝た? 完全に寝た?」
「寝たのう。これは今がチャンスじゃ」
後ろでひそひそ声がしてるんだが……?
だが俺は疲れが限界で、そのまま夢の世界へ落ちた。
翌朝。
「アキトさぁん!! 大変です!!」
「なんだよ……まだ夢の中でいたい……」
「アキトさんの寝相が……展示されてます!!」
「は?」
俺が飛び起きると
牢屋の端っこには見覚えのない新しい展示棚。
タイトル
『アキトさん寝相写真展(第一部:無防備の極み)』
「やめろぉぉぉ!!? 俺の寝相なんで写真化してんだよ!!」
そこには
・寝ながら壁に頭突きしてる俺
・牢屋の床と同化してる俺
・寝ながらパンツの亡霊(気のせい)に怯えてる俺
・謎の“指ハート”ポーズを無意識でしてる俺
エルミナが胸を張る。
「夜中のアキトさん、すっごく可愛かったので……!」
「可愛いとかじゃなくて盗撮だよ!! 刑法では犯罪なんだよ!!」
「アキト、ここ牢屋じゃぞ。法の適用範囲が曖昧じゃ」
「どんだけ都合のいい世界だよ!!」
そこへ、隊長が視察に来た。
「ん? 新しい展示か?」
(やばい、絶対怒られる……!!)
しかし隊長は写真を見て固まった。
「……おい、これは……」
「ご、ごめんなさい隊長! 私が勝手に撮っ─」
「この“床と同化してる寝相”、どうやって撮った?」
「そっち!? 興味そこなの!!?」
ラーデンじいさんがやたら誇らしげだ。
「ワシが撮ったのじゃ。ほれ、魔導レンズ“夜目の極み”でのう」
「いやじいさん何してんの……?」
隊長は腕を組み、低くつぶやいた。
「……これは、公式資料として残すべきでは?」
「やめろォォォォォ!!?」
午後。
牢屋の前には、また人の列。
「今日は寝相の新作あるって聞いたんですけど!」
「アキト様の“丸まってる寝相”が可愛すぎると聞いて!」
「可愛くない!! 寝てただけ!! 無防備なだけ!!」
「寝相ファンです!! サインください!」
「そんな界隈あるの!? どこで生まれたの!?」
「アキトさん、今日はありがとうございます!」
「何がありがとうなんだよ……俺の尊厳どこに置いてきた……?」
「第二部の展示も準備してますね!」
「まだ増やす気か!!?」
ラーデンじいさんもにやにやしながら言う。
『次は“寝言コレクション”じゃな。楽しみじゃのう』
「録音するなぁぁ!!」
その夜、俺は緊張で眠れなかった。




