街で噂になる“牢屋コレクション”
異世界に来て何日目だろう。
とにかく今日も俺は牢屋にいた。
……のだが。
「アキトさん! 今日も展示が増えてますよ!」
「展示って言うな!!」
そう、エルミナとラーデンじいさんの手によって、
俺の牢屋はいつの間にか“コレクションルーム”になっていた。
壁には、昨日の「囚人ファッションショー」の写真がずらり。
棚には、パンツの亡霊(※気のせい)のイラスト付き供養プレート。
天井からは、なぜかラーデン作の“火を吹かない提灯(失敗作)”がぶら下がり……。
『なんじゃこの、便利でもなんでもない魔導アイテム展示会は』
「じいさんが一番展示数多いけどな!」
そんな俺の牢屋だが
最近、どうやら街で“噂”になっているらしい。
その日の午後。
隊長がため息をつきながら、門の前で市民を整理していた。
「はーい! 一列に並んでくださーい!
“牢屋コレクション”は触れない、騒がない、写真は一日二枚まで!」
「なんで観光地になってんだよ!?」
俺は鉄格子にかじりつきながら叫んだ。
列には、子ども、商人、旅人、謎の冒険者……
みんな期待に満ちた顔で牢屋の奥を覗き込んでくる。
「お兄ちゃん! パンツの亡霊ってホントに出るの?!」
「出ねぇよ! 出たとしても“気のせい”って決まってるだろ!」
「気のせい」って断言するのもどうかと思うが。
ラーデンじいさんは観光客相手に堂々と説明している。
「こちらが“ブルル事件”の際に主人公が落下しながら描いた
『死ぬかと思ったスケッチ』じゃ。未完成じゃが価値は高いぞ」
「価値ねーよ!!」
エルミナはエルミナで、客の前で胸を張る。
「こちらは私が描いた“アキトさん表情図鑑”です!
レアな“泣きそうなアキトさん”や“叫んでるアキトさん”もあります!」
「なんで俺の表情コレクション作ってんだよ!?
しかもそれ完全に俺の黒歴史だろ!!」
街の人々は楽しそうだ。
「これが今話題の……牢屋コレクションか……」
「写真映えするなぁ〜!」
「囚人が日替わりで叫ぶのもいいスパイスだ」
「スパイス扱いすんな!!」
そのとき、隊長が俺の前へ歩いてきて言った。
「アキト。
向こうの酒場が“牢屋コレクショングッズ”を販売したいそうだ」
「許可すんなああああ!!」
「ちなみに第一弾は“泣き顔アキトのステッカー”と」
「やめろォォォォ!!」
「第二弾は“パンツの亡霊キーホルダー”だそうだ」
「気のせいなのにグッズ化すんな!!」
その夜。
「……アキトさん、今日は大盛況でしたね!」
「うるさい! なぜ俺の牢屋が観光地になってんだ!」
『ふむ……ワシの魔法模型も売れるかもしれんのう……』
「商売考えるなじいさん!!」
結局、牢屋の日常は今日も騒がしくて、
そしてなぜか……ほんの少しだけ楽しかった。




