呪い解除の日、パンツが最後にやらかす
異世界四日目。
呪われたパンツを履かされてから三日目の朝ついに呪いが解ける日が来た。
『ご主人、おはよ! 今日でお別れかと思うと寂しいぜ』
「俺は嬉しすぎて泣きそうだけどな!!」
牢屋の藁ベッドの上で、俺はパンツとにらみ合う。
最初から最後まで地獄だった。空飛ぶ鳥に攫われたり、街の噴水に落とされたり……。
鉄格子の外から、エルミナがキラキラした目でこちらを見ている。
「今日、パンツさんの呪いが解けるんですよね!? 記念に街へ行きましょう!」
「なんの記念だよ!? パンツ卒業式か!?」
「だって、お別れって寂しいじゃないですか!」
『そうだぜ! ご主人と俺、もう親友だよな?』
「親友の基準どうなってんだよ!!」
これ以上言い合っても意味がないので、俺は仮釈放され、エルミナと街へ出た。
街は朝からいつもどおり賑やか……かと思いきや。
「あっ、パンツ男だ……」
「今日、呪いが解けるらしいぞ」
「ついに……あのパンツとお別れ……?」
「涙が出そうだ……」
「泣くなよ!!?」
なぜか街の人々まで感動している。
お前ら俺よりパンツに愛着あるだろ。
「アキトさん、記念に“最後のパンツ散歩”しましょう!」
「そのワードやめろおおお!!」
しかしエルミナに無理やり手を引かれ、街中を歩き回ることになった。
パンツは妙に陽気だ。
『へへっ、なんか胸が熱くなるな。いや、腰か? まあどっちでもいいか』
「黙れ……今日は絶対静かに過ごすんだ……!」
だが、事件は起きた。
街の中心にある鐘楼。
高く積まれた石の塔が、朝日に照らされて輝いていた。
「アキトさん、鐘楼の上は絶景なんですよ!」
「あぶないからやめとけ……高いところろくなことにならん……」
「パンツさんも見たいですよね?」
『もちろんだぜ!!』
「お前まで乗り気になるなぁぁぁ!!」
仕方なく塔に上がる俺。
てっぺんは風が強い。嫌な予感しかしない。
「きれいですね、アキトさん!」
「ああ……まあ、確かにな……」
と、そこへ。
ドゴォオオオン!!
上空で聞き慣れた鳥の鳴き声。
「キュルルルルルッ!!」
「またお前かぁぁぁ!!?」
前回俺を攫った巨大な青い鳥、“魔力鳥ブルル”が再登場した。
『いよっ! リベンジの相手が来たな!』
「挑発すんなあああ!!」
ブルルは塔の上を旋回しながら、俺のパンツをロックオン。
「パンツさん、今日で最後だから……たぶん、奪いに来たんですよ!」
「ロマンチックみたいに言うな!!」
そしてブルルが急降下。
「アキトさん危ない!」
「うおおおおお!?」
とっさにエルミナを抱え込み、パンツが風を噴出。
『“守護パンツ・最終防衛モード”発動!』
「そんなモード聞いてないぃぃーー!!」
パンツから膨大な風が吹き荒れ、塔の上がハリケーン状態に。
二人まとめて吹き飛び
俺とエルミナは鐘楼の反対側へ落下。
落下中、俺は絶望した。
「やっぱり死ぬのかああああ!!」
『ご主人! 最後にひと仕事させてくれ!!』
「なんだよまだあるのかよ!!?」
パンツが強烈に膨らみ、空中でパラシュート化。
そして
俺とエルミナはゆっくりと地面に降りた。
街中の人々は感動して拍手していた。
「すごい……!」
「パンツさん、最後まで主人を守ったんだ……!」
「なんていいパンツ……!」
「なんでパンツに感動してんだお前ら!!?こうなった原因はこのパンツのせいだからね!」
着地したパンツは、ふわりと光を失い。
『へっ……これで、役目は……終わりだぜ……』
「いや、最後かっこいいな!!?」
パンツはただの布に戻り、ぱたりと落ちた。
パンツの葬式(なぜか街の人が勝手に始めた)に参加したあと
俺は当然のように衛兵に連れていかれた。
「今日の騒ぎ……記録によると、塔を破壊しかけたらしいね?」
「俺のせいじゃない!! パンツだ!!」
「いや、記録上は君だよ」
「そんなぁぁぁ!!」
そして、俺はまた牢屋に戻ってきた。
鉄格子の外で、エルミナが満面の笑顔で手を振る。
「アキトさん! パンツさん、最後にすごかったですね!」
「もうパンツの話はやめてくれぇぇ!!」
今日も異世界は平和(?)である。




