オシャレな囚人服は?
牢屋の朝。
エルミナはなにやら黙々と裁縫していた。
「……エルミナ、なに作ってんの?」
アキトが聞くと、彼女は胸を張った。
「囚人服を、オシャレにしようと思って!」
「やめてくれ」
即答するアキト。
「だって、牢屋生活って暗いじゃないですか?少しでも明るくしいと思って」
「明るくしていい場所じゃないんだよここ!」
そこへ、ラーデンじいさんが渋く頷く。
「うむ。オシャレは心の栄養じゃ。ワシも賛成じゃ」
「じいさんまで……」
「まずはアキトさんの分からね! サイズは……」
エルミナは当然のようにアキトの肩幅を計り始める。
「ちょ、なに当たり前みたいに採寸してんの!?」
「動かないで動かないで! ずれる!」
「いや、だから! 囚人服って“採寸して作るもの”じゃないから!」
エルミナは無視して布を切る。
「ふんふん……いいね、これは似合うはず。
アキトさんは意外と細身だから、ここを絞って……」
「なんで俺の体型を把握してんだよ」
「見張ってるから」
「こえーよ!」
「お嬢さんよ、ワシのも頼む」
「えっ、おじいさんも着るの?」
「当然じゃ。ワシは人生でオシャレを諦めたことがない」
エルミナはじいさん用の布を広げる。
「ラーデンさんは……シワが多いから、縦ラインで整えて……」
「おお、それは嬉しいのぉ」
アキトが思わず呟く。
「(これ本気でファッションショー始まるやつだ……)」
エルミナが得意げに披露する。
アキト用
「実はイケメン風・囚人スタイル」
・丈が絶妙に合っている
・肩がしゅっとしていて、明らかに囚人服じゃない
・胸元に魔法少女みたいな小さな星飾り
「いやこの星なんだよ!」
「ワンポイントです」
「要らん!」
ラーデン用
「中世の魔術師っぽい囚人ローブ」
・後ろに謎のマント
・胸元に“R”の刺繍
・杖を持たせると罪人に見えない
「どうじゃアキト、似合うか?」
「ただの魔法使いだよ!」
エルミナ用(自分のやつ)
「衛兵なのか魔法少女なのか囚人なのか不明」
・スカートひらひら
・腰にホルスター
・袖だけ囚人服デザイン
・胸に不穏な鳥の刺繍(過去の事件)
「ちょっとかわいくしたかった」
「方向性迷走しすぎだろ!」
ちょうどそのタイミングで
ガチャッ
隊長が視察にやって来た。
「おい、今日の様子を……見……」
固まる。
「…………なぜ全員が……おしゃれになっている?」
「隊長、どうです? 心が豊かになります!」
エルミナが笑顔で回る。
「いや……豊か……というか……」
隊長はアキトの胸の星を見る。
「……これは違反では?」
「俺に言うなよ!!」
「(……だが……)」
「(エルミナは似合っているな……)」
アキトとラーデンは気づいた。
「また気に入ってるじゃねぇか!!」
「またじゃな!」
牢屋にツッコミが響いた。




