隊長の視察と“飾った牢屋”
牢屋の中は、相変わらず石と鉄格子だけの殺風景だった。
あまりに寂しいので、俺はついほんの出来心で
乾燥ハーブを束ねて壁に吊るし、拾った小石で“ニコッ”と笑う顔を並べ、藁を編んで小さな置き物まで作ってしまった。
「……うん、なんか落ち着くな。心が豊かになるっていうか……」
自分で言いながら、我ながら終わってると少し思った。
そこへ、
ガチャリ。
鉄扉が開き、革靴の硬い音が近づいてくる。
「視察だ。……ん?」
現れたのは、近衛隊長
いつも眉間にしわを寄せて生きているような、石像みたいな男だ。
隊長は一歩入ってきた瞬間に固まった。
「…………」
俺は気まずく笑う。
「……あの、ちょっとだけオシャレにしようかなーって」
隊長の眉が引きつった。
「ここは家か!?」
「いえ、牢屋です」
「じゃあなぜ飾る!? なぜだ!!」
「いや、ほら……殺風景だと気が滅入るなーって……」
「気が滅入るべき場所だろうが!!」
隊長の怒号が反響し、吊るしたハーブがふるふる揺れた。
しかし彼はしばらく黙り、小石の顔を見つめたあと
「…………これ、どうやって作った」
「小石を三つ拾って、土でくっつけて……」
「無駄な創作力を発揮するなッ!!」
怒られた。
でも、ちょっと声に笑いが混じってた気がする。
隊長はため息をつき、踵を返して歩き去る。
「……片付けておけ。
次に来た時、季節の飾りとか置いてあったら、本気で怒るぞ」
そう言い残し、扉が閉まった。
俺は天井を見上げ、小さくつぶやく。
「……じゃあ季節の飾りはダメか。残念」
それでも、吊るしたハーブはしばらく残しておこうと思った。




