ラーデンじいさんの青春武勇伝(ほぼ盛ってる)
「さて、若いのらよ。今日はワシの 青春黄金期 の話をしてやろうかの!」
牢屋の薄暗い空気が、一瞬だけ“いやな期待感”で震えた。
エルミナは速攻で耳を塞ぐ。
「聞きませんからね!? 前回の“青春講座”で二日寝込んだんですけど私!」
「おいラーデン。その“黄金期”って何百年前?」
「ふぉっふぉ。数えるのが面倒になった頃じゃな!」
絶対まともな話じゃない。
ラーデン武勇伝1
千人の乙女を泣かせた漢・ラーデン
「若い頃のワシはのう、歩くだけで乙女の悲鳴が上がったもんじゃ」
「犯罪か?」
「違うわい!歓声じゃ!いや、悲鳴もあったかもしれんがの!」
エルミナがぼそっとつぶやく。
「“歩く災害”って呼ばれてませんでした?」
「誰じゃそんな失礼な呼び方をしたのはぁ!」
多分、世界全体。
ラーデン武勇伝2
伝説の禁術《不死鳥ナンパ拳》
「街角でのナンパは基本中の基本じゃ。しかしワシは違う!」
「やめてください、衛兵として聞くに耐えない…!」
「《不死鳥ナンパ拳》はの、断られても何度でも立ち上がる拳じゃ!」
「強みが精神力だけ!!」
アキトは思わず突っ込んだ。
「いや拳必要?それただのメンタルの話だろ」
「拳を握ると気合が入るんじゃ!」
「関係ない……」
ラーデン武勇伝3
王女の逆プロポーズ事件
「あるとき王女様から“結婚して!”と迫られたわい」
「いや絶対盛ってる」
「盛っとらん!ほんの少しだけ膨らませただけじゃ!」
「それ盛ってるって言うのッ!」
エルミナが机を叩く。
「どれくらい“膨らませた”んです?」
「実際は“迷子の子供に飴あげたら、おじちゃんと結婚するって言ってた”程度じゃ」
「ぜんっぜん違う!!」
ラーデン武勇伝4
三国同盟“なぜか”ワシのせい
「昔の三国戦争も、ワシの一言で和平が結ばれたんじゃ」
「ほう……すごいじゃん?」
「“戦争より女子との出会いのほうが楽しいぞ”って言ったら、全員笑い出しての」
「理由ゆるっ!!」
「でも和平できたなら……まあ良いのでは?」
「そしたら翌日、全員の王から“二度と来るな”と言われたがの!」
最後の武勇伝
永遠の青年・ラーデン
ラーデンは鼻髭をふぁさりと撫で、妙にしんみりした。
「……しかしのう。若い頃のワシは、ほんに馬鹿で、それでも楽しかったんじゃ」
アキトとエルミナは思わず静かになる。
「ワシは長生きしすぎて、みんな先に行ってしもうた。
だからの。“楽しいことは全部話して笑われる”……
それが、今のワシができる青春の使い道じゃ」
エルミナがぽそっと言う。
「……じいちゃん、盛るのはいいけど。
たまには本当のことだけでも、話していいですよ」
ラーデンは少しだけ目を見開き、それから笑った。
「そうじゃの。
……本当は、ワシ、この牢屋が少し楽しいんじゃ。
若いのと話すの、久しぶりでのう」
アキトはニヤッと笑う。
「ならもう盛らなくていいよ。
どうせ俺たち、全部ツッコむから」
「ふぉっふぉっふぉ!!
なら次は“本当にあった怖い元カノ”の話を」
エルミナ「それは聞きません!!!」
牢屋は今日もにぎやかだった。




