アキト視点、《エルミナの記録帳を読んでしまった日の話》
牢屋の昼。
パンは乾いて岩みたいだし、水は濁ってるし、
ラーデンじいさんは今日も壁と会話している。
そんな地獄の中で
俺は偶然、とんでもないものを見つけてしまった。
エルミナの記録帳。
机の上にぽつんと置かれていた。
タイトルは『極秘・見習い記録帳』。
極秘と書いてある時点で開くべきじゃない。
うん、わかってる。
わかってるんだけども
“極秘”って書くと逆に読むだろ!?
(完全に罠だろこれ)
最初のページにはこう書いてあった。
“アキトさんは今日も生きていた。よかった。”
……待て。
その感想から始まるの、なんか恥ずかしいんだけど。
さらにページをめくると――
もっとヤバいものがあった。
“アキトさんにありがとうと言われた。
心がふわっとした。”
俺
「…………」
脳が止まった。
え、なにこれ。
俺、そんなこと言ったっけ?
言ったわ。昨日言ったわ。
でも、ふわっとしたって何!?
なんだよその言葉。
こっちがふわっとするわ。
バサッ!
背後から何かが飛んできた。
エルミナ
「み、みみみ、見ないでええええええええ!!!!!」
叫びながら突撃してきた。
反射的に俺の手から記録帳を奪うエルミナ。
次の瞬間
ガンッ!!
俺の額に頭突きが炸裂した。
アキト
「ーーーッ!!??」
ラーデン
「いい頭突きじゃのう」
じいさん黙れ。
エルミナ
「ア、アキトさん!? な、な、なんで読むんですか!?!?」
アキト
「いや、置いてあったから……」
エルミナ
「極秘って書いてありましたよね!!?」
アキト
「それが逆に読みたくなるんだよ!!」
エルミナ
「ダメですぅぅぅ!!」
顔真っ赤にして涙目で叫ぶエルミナ。
その姿を見て、ちょっとだけ胸が痛くなった。
……いや、ほんのちょっとだけだけど。
エルミナは顔を覆ったまま震えていた。
俺は、言うべきか迷って
でも、言った。
アキト
「……ありがとう。
なんか、ちゃんと見てくれてるんだな」
エルミナ
「っ……!」
濡れた子犬みたいな顔で固まるエルミナ。
次の瞬間、
記録帳は彼女のポケット奥深くに吸い込まれていった。
(ポケット破れかけてたけど気にしない)
ラーデン
「青春じゃのう。ほれ、今日のパンも半分やるぞ」
アキト
「じいさん、それカビてる」
ラーデン
「青春は腹を壊すんじゃ」
じいさんは適当なことを言ってニヤニヤしていた。
……まあいい。
俺もなんか、ふわっとしたから。
(※言った本人が一番ふわっとした)
今日も牢屋は、ふわっとしている?




